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3. 輪廻の世界

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『どうしても、どうしても!』
 とあまりにしつこいので、仕方なく家に連れてきた。
 は、良いが……

 こんな頭のイカれたやつを家にあげて大丈夫なのだろうか。
 軽薄なやつではあるが、さすがにこんな悪ふざけをするとも思えない。

「確かに人が目の前で死ぬのは夢見が悪いってのは分かる。でもなんで俺なんかの為にそこまでするんだよ?」

「なんでって言われてもなぁ。助けなきゃ話にならんだろ。俺は俺たちの為にやってんだよ」

「……なに言ってんの?てか、なんか証拠とかないわけ?その、俺が死ぬとか」

 胸躍らせながら毎日を生きてるかと言われるとそうでないのは事実だ。
 でも、今のところ俺には自殺願望はない。
 みんなそんなものじゃないのか?とも思う。

横浜 言慈よこはま げんじ、お前は俺が帰った後にまた死ぬ。今度は自宅で"首を吊って" な」

「だから、俺死ぬ気ねぇんだって」

「……次こそ頼んだぞ」

「へ?」

「まぁ、でも……また戻ってくることになるかもな」

 段々と新田の表情が変わってきて、いよいよ本気で怖くなってきた。
 やはり仕事は仕事として、職場の人間とプライベートで関わるべきじゃない。

 日中、外面でしか接していない人間を信用できるわけがないし、とにかく仕事とプライベートとは分けたい。
 ただそれだけなんだ。
 それなのに俺は家にまであげて何してんだ。

「……早く帰れよ」

「おう」

 あんなにしつこかった新田が、短く返事をして帰っていった。

 俺はすぐにそれっぽいものを家中探し、何の躊躇いもなくドアノブに紐をくくりつけ首を吊った。

 その夜、変な夢を見た。
 真っ暗闇の空間にぽつりと浮かぶように存在する赤い扉が一つ。
 その扉を開けると黒いスーツ姿の男が立っていた。

「はぁ……何度来られても困ります。あなたはまだ名簿に載っておりませんので、居場所をご用意出来ません。お引き取りください」

「いや……ていうか、どこ、ここ」

「本来!許されないのですが!何度も何度もご案内するのが!そろそろ面倒くさいので!今回だけ!特別に!記憶はそのままに!しておきますので!くれぐれも!死なないように!行ってらっしゃいませ!」

 すごい剣幕で両肩を二度ほど叩かれ、目が覚めた。

 この光景……どこかで…。




「最近、帰るのも早いよな?」


「妊活中かもよ~?」


「旦那がヤキモチ妬きで止められてるとか?」


 また下世話な話が繰り広げられていた。
 もちろん話の中心は例のカップル。





 知ってるぞ。
 この後、俺に話が振られるはずだ。

「どう思う?」

 きた。
 なんなんだ、一体……。
 これはなんだ。

 不気味な危機感を覚えた俺は、急用が出来たと飲み会を抜けた。
 みんな不思議そうな顔をしていたが、とりあえず帰ろうと駅まで走った。

 サラリーマンと肩がぶつかって、咄嗟に『すみません』と言いながら男の顔を見ると、新田が立っていた。

「お前さぁ……」

 やばい。
 考えろ、何がやばい?!

「もう4回目だぞ?」

「な、なにが?」

 とにかくしらばっくれよう。
 俺は何も知らない。
 記憶にない!よし!

「覚えてることは?」

「だ、だから、なにがだよ」

「急用って?」

「し、正直に言うよ。もう面倒なんだよな、飲み会とか……っ。だから、早く、帰りたくて…」

 落ち着け。
 大丈夫だ。

「うーん、毎回お前の行動が少しずつ変わるのはなんなんだ?というか、戻してくる理由ってなんなんだ?」

 新田がブツブツと呟き始め、苛立ちを隠せない様子で貧乏揺すりをしている。

「も、戻してくるって、なん…だ…よ」





「"飛び込め"」






 快速電車の警笛とキィィィィ!!!!という耳を劈くブレーキ音がホームに鳴り響いた。



 轢かれた。
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