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4. 復讐の始まり

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 東堂さんからお呼びがかかった。
 いつもみたいにディナーじゃなくて、車の中だったけどやっぱり着ていく服には悩んだ。

「すみません、あまり人の耳に入れたくない話でして。早とちりでないことを祈るんですが、あなたの好きな人って社内の方じゃないですか?何となく、あの人かなっていう候補も浮かんでます」

「え?なんでですか?」

「僕、そういう勘よく働くんです」

 いや、そうじゃなくて。

「いや、そうじゃなくて、どうして私の好きな人の特定というか、知ってどうするんですか?」

「会社を買収しようかと思ってます」

「え?あの、返事になってないです」

「返事ですよ。買収に乗じて彼を解雇します。会社の業績評価次第では派遣社員であるあなたのクビも回避できない可能性もありますが、新たな職はこちらでご用意しますので」

 何の話かわからない。

「会社を買収します」

 とか言ってみたいな。
 私はそんな大きな権力や地位を持ったことがないし、やっぱり東堂さんとは無縁の世界にいるんだなぁ。

「復讐の一手目です。僕の想像してる方であっていたとして、今リストラにでもあえば年齢的にも再就職はかなり厳しいでしょう。いや、厳しくなるように根回しをします。ご家庭含めて、かなり大きな打撃になるかと」

 ほんとに復讐するんだ。
 私の背中刺したいとか、地獄に落ちろとか、呪い殺したいとか、
 そういうのって思ってても普通実行には移さないもんじゃん。
 ほんとに実行する人なんだ、東堂さん。

「私と東堂さんが考えてる人が同じなら大打撃だと思います。遅くに子供ができた人だから尚更。旦那が解雇って、奥さんも辞めるのかな…」

 そう。
 真島さんの奥さんは同じ会社で働いている。
 別に奥さんを心配したわけじゃない。
 自分の旦那が、何かを企む東堂さんの策で解雇されたあと、どうすんのかなと単純に思っただけ。
 ただ、それだけ。

 ある程度、役職のついてる社員の奥さん達はこぞってその奥さんのいる部署に集められてて産休やら育休やら好き放題やっている。
 権利だからね?
 いいんだけど、あってないようないような部署だし、あってもなくても問題ないような部署。
 会社的に有給率とか、福利厚生の実績の為に作られた部署。
 いつもお茶会ばかりしてると悪名高い部署。
 女性社員からもかなり嫉まれてる部署。

 何がむかつくって派遣の私よりも給料は良いは、待遇良すぎるは、仕事してる様子はないは、で潰れちゃえばいいのにって常々思ってる。
 ぬるま湯に浸かりながら十分過ぎる安定した給与を得ながら、真島さんの奥さんであるという事実が無性に気に食わない。
 なんの苦労も知らない50間際のババアが。

「あの部署は出来れば残しておきたいところです。ホワイト企業の名目を一応果たしている部署なので。それに、旦那だけクビを切られた方が男の自尊心に響くのではないでしょうか、あの年代的にも」

「そういうもんですか」

「そういうもんですよ、男なんて。根回しの材料が必要なのですが、不倫の証拠とかありませんか?不祥事を上乗せ出来れば再就職をより厳しくできます。あなたには迷惑はかけません。例えばホテルでの彼の寝顔の画像とか」

「あ、録音、ありますよ」

「え?」

「え?」

 あ、しまった。
 なんで録音なんてしてるんだって絶対思うよね。
 記念なんです、これでオナニーしてますなんて、気持ち悪いにも程があるよね。

「……念の為っていうか、いつか使い道あるかなと思って」

「あぁ、なるほど。女性は怖いですね」

 からかうように笑ってるけど、録音って不倫について話してる録音とかじゃなくて。



 え、これ聞かせるの?



「あの、……行為中の録音、なんですけど。役に立ちますかね。会話は少しだけなんですけど」

「声で分かると思います。近しい人間なら余計に。聞かせてもらってもいいですか?」

「え、聞くんですか?今、ですか?」

「一応中身の確認をしておきたいので」

 当然のことかのように言うけどさ、恥ずかしすぎるよ。
 なんの罰ゲームよ。

 録音から聞こえる私の喘ぎ声が車内に響き渡る。
 東堂さんは真剣な顔をして黙って録音を聞いている。
 この異質な空気のせいか、いつもこれでオナニーしてるせいか、パブロフの犬みたいにあそこから愛液が溢れ出してきてるのがわかる。



 あぁ、オナニーしたい。
 すっごいムラムラしてきた。



 気付けば私は恥じらいもなく、東堂さんに聞いていた。

「あの、オナニーしてもいいですか?」

 許可を得るより先に私はスカートの中に手を忍ばせて、おっぱじめていた。

「いいですよ、僕の事は気になさらないでください。あ、シート少し倒しますか?」

 シートを優しく倒してくれて、さっきよりも恥ずかしい体勢になった。
 お気になさらずって無理じゃない?
 真島さんとヤってる音声を他人に聞かれながら、オナニー見られてるんだよ。
 いや、見られてはないけど、視界には入ってるよね。
 こんなの興奮するに決まってんじゃん。
 わざと東堂さんに聞かせるように、びちょびちょに濡れたあそこを音を立てて触った。
 いつもより感度がいい。
 気持ちいい。
 録音の邪魔をしないように声を押し殺していたけど、ちょっとそろそろやばくなってきた。

 こんな早くイったら引かれるかな?
 そもそもこの状況だし今更か。




 私は指の動きを早めて、絶頂した。




 クリトリスを触るよりも先に、入り口付近を弄んでただけでイってしまった。
 息が乱れてる私の頭を東堂さんは左手で優しく撫でてくれた。
 自分のオナニーに必死で今の今まで全く気付かなかったんだけど、東堂さんの右手はギンギンに反り勃ったアレを激しくシゴいていて、

「あっ、もう……っ、すみません…!」

 と苦しそうに呟いてティッシュに出していた。

 また、東堂さんの人間らしいところが一つ見れた気がした。
 セックス中の録音を聞きながら車内でオナニーし合うだなんて、こんなアホらしい行為を東堂さんもやるんだって思った。






「名前も呼んでますし、僕でも声があの人だと分かる。会話の内容も十分不倫の証拠になると思います」

 何事もなかったように話しかけてくるけど、私たちオナニーし合ってましたよ?
 スッキリして賢者モードなのかな。
 男ってそういうもんなのかな。
 東堂さんでも。

 私はイって、まだ疼いてるから、真島さんに会って彼のアレを突っ込んでズボズボ腰を振りまくってほしいなって思ってる。

 ていうか、私、復讐したいのかな。
 復讐したくないですとも言い切れなかったってことは、ちょっとは望んでるのかもな。
 家庭崩壊すればいいとも思ったことあるし、奥さん嫌いだし、私を寂しくさせる真島さんなんて地獄に落ちてしまえって怒ってるもん。

 でもね、実際に家庭を壊す気はないし、離婚して私の元に来てとか思ってもないし、むしろお前みたいな男と結婚なんて絶対にしたくもないわって思ってるのも本音だよ。
 だから、東堂さんの復讐が上手くいって本当に離婚しちゃったとしても、スッキリしたなって思うくらいだと思う。
 家庭崩壊したら奥さんとガキ含めて、ざまぁみろって思うくらいだと思う。
 自由の身になって、誰かと恋をして再婚される方がキツイかも。
 まぁ今は東堂さんの復讐とやらに付き合おうかな。

「すごく、可愛い声を出すんですね」

 東堂さんが何も言わない私に声をかけた。
 すみません、色々頭の中で喋ってました。
 あ、てかやっぱり録音、触れるよね。
 そのままスルーしてくれるのかと思ったけど、普通そうだよね。

「お恥ずかしいです、ほんと。色々と…」

「オナニー、よくするんですか?」

「え?あ、いや。そんなには…」

 最近は、ほぼ毎日してる。
 真島さんの録音が悪い。
 真島さんが悪い。

「僕は前にそういう行為に期待しないと言いました。でもオナニーだったら体にも触れませんし…どうでしょうか?」

 どうでしょうか?とは。
 セックスはしないけどオナニー見せ合いっこしませんか?というお誘いですか?

 一人でするよりは虚しくもないだろうな。
 さっきも興奮しすぎて入り口触ってただけでイったしな。
 うん、興味はある。
 体にも触れられないなら上書きされた事にはならないような気もする。
 いいかもな、見せ合いっこ。
 したくなってきた。

「それなら……いいですよ」

 その後ホテルに直行して、お互い服をはだけさせて見せつけ合った。
 東堂さん、やっぱり筋肉すごいな。
 服の上からでも分かってたけど、直接見るとすごく綺麗で逞しい体してる。
 あの東堂さんが、必死に私の手の動きを見ながらはぁはぁ言ってるのも興奮する。
 私は指を二本、穴に入れて激しく出し入れした。
 嫌でもクチャクチャ、パンパンと音がする。

 自慰行為ってほんと無意味だよなぁ。
 繁殖行為でもなくただ快感を得る為だけの無意味な行為。
 なんで人間ってオナニーするんだろ。
 なんでムラムラして、気持ちよくなりたいんだろ。

 脳内で目の前の東堂さんを真島さんに変換すると、一気に達しそうになる。
 なんかもう、恥ずかしさとかどうでもいいやと思って思い切り喘いで、イった。
 そんな私を見て東堂さんも情けない声を漏らしながら、イった。

 私たちは復讐について話す為に会い、その後は必ずオナニーを見せ合うようになった。
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