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二時限目 家庭教師暇になる

二度あることは?

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 頬に僅かな痛みを感じながら身を起こすとどうやら先程までソファに寝転がっていた事が解った。しかし何故こんな所で目を覚ましたのかまでは解らなかった。


「ん……ここは……」

「あら、おはようソテル君。目が覚めた?」


 アリシアはリンゴの皮をむきながらソテルに声を掛けると、手にしていたものを机に置き、すかさず強烈なデコピンをお見舞いした。


「何がしたかったのか解らないまま殴ってしまった事は謝るけど、もうあんなおいたは駄目よ? ビックリして危うく滅殺してしまう所だったわよ?」

 まだ動きの鈍い脳を懸命に働かせ記憶をたどるとアリシアに声を掛けた瞬間、強烈に脳を揺さぶられたように視界の全てがブレて見え、俺は気を失っている。その記憶の中でアリシアの拳は分身していた。

 残像を残すほどの一撃を受けたソテルは恐らく死にかけたのだろう。

 気絶して術が解けた俺を見て慌てて治療してくれた所までは予測が出来た。しかしアリシアよ、不審に見えたからと言って滅殺するのはどうかと思う。いや、こればかりは不穏な今の状況に丁度良いくらいの対応なのだろうが、まさか安心しきった相手に気絶させられるとは俺も思っていなかった。逆に気を引き締めるという意味では良かったのかも知れない。まぁ、途轍もない恐怖を味わった訳だが……

 内心では愚痴りながらも改めて怒らせないようにしようと気を遣って話を進めた。


「面目ないです、ただその様子だと正体が俺だとはわからないみたいですね!」

「そうね、全くそんな気配も感じないし歩いたときの音も違うからソテル君だとは思いもしなかったわ。でも一つあるとしたら歩くときの地面をけるタイミングはソテル君のものだったわね」


 アリシアの耳の良さに戦慄しながらも彼女の言葉は身を隠す魔法の完成を意味していた。自分を隠す魔法の完成にソテルは大喜びした。その声に呼応してか玄関から家主の帰宅の声が聞こえた。

 ブリックスが家を出てからまだそんなに時間は経っていないはずだが……慌てて窓を見ると辺りは漆黒の中に擬似的な太陽が浮かんでいた。

 アリシアと窓の間を何度か視線だけ往復させるとようやく合点がいった。

 隠遁の術が完成したのが昼過ぎの一時頃、現在はブリックスが帰宅していることと外の様子から恐らく夜七時。きっとステラも部屋で自習しているのだろう。

 状況を察した俺にアリシアは舌をペロッと出して「ごめんね」と愛くるしい表情で頭を少しだけ下げた。六時間程気絶させられたソテルは治癒魔法の甲斐もあってか、体の調子はここ最近では一番良かった。しかし殴られた場所はいたかった。

 複雑な心境になりながらも今日は何も可笑しな事は起きなかったことにして俺とアリシアは共にブリックスを迎え、ステラも加えていつも通り四人で夕食を取った。

 
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