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第3章 地獄に堕ちた蛇
#7 暴かれた秘密
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「どうしてそんな気持ちになったのか、今になってもわからない。とにかく、気がつくと好きになっていた」
何のてらいもなく、俊は言った。
「同じ部屋の、高等部の先輩をね。だから、告白した。それの、何が悪い?」
悪くはない。
人を好きになること。
それは私たちに与えられた数少ない自由だ。
悪いなんてことが、あるはずない。
その相手が…。
そう、たとえ、同性でも。
英光学園と言えば、全寮制の男子校である。
つまり、俊の恋の相手は、ふたつ年上の男子高校生だったというわけだ。
残念ながら、俊の恋した相手は、まるでホモセクシャルに理解のない人間だったらしい。
-男にコクられたー
その先輩が面白半分にラインで発したひと言が、学校中に拡散するのに長くはかからなかった。
翌日から猛烈ないじめが始まった。
すっかりホモ扱いされた俊は、クラスどころか学校じゅうから孤立した。
ゴールデンウィーク前、俊が突然帰ってきて『休学宣言』をしたのは、そういうわけだったのだ。
頭がくらくらした。
俊の顔をまともに見ていられず、私は視線をテーブルの上に落とした。
ショックじゃない、といったら、まるっきりの嘘になる。
俊が、同性愛者…?
そんなこと…あって、いいはずがない。
もしそれが本当なら、私は…。
「いや、あのサイトを色々分析してるうちにね、いちばん最近の記事が、どうやら絵麻ちゃん、キミに当てられたものじゃないかってことになって、それでお兄さんの事件にたどり着いたというわけなんだよ。それで、もう一度聞きたいんだが、その…お兄さんが休学した理由、本当はキミ、知ってたんじゃないのかい? それをインターネット上でばらされそうになって、キミは焦った。敬愛する兄のために、どうにかして止めたいと思った。だからあの日、被害者の柊美沙さんを、屋上に呼び出したんじゃないかな。そう、口止めするつもりで」
俊が話し終えるのを待っていたかのように、おじさん刑事のほうが言った。
これではまるで誘導尋問だ。
虚偽の自白による冤罪は、おそらくこうして生まれるのだろう。
が、私は引っかからなかった。
「それでもみ合ってるうちに、私が美沙を突き落としたとでも? 冗談はやめてください。この前もお話ししたように、誘ってきたのは、美沙のほうからなんです。それに結局、あの子は現れなかった。これも本当です。第一、私がやったっていう証拠はあるんですか? 美沙が私の髪の毛を握って死んでいたとか、屋上にもみ合ったような跡が残ってたとか?」
悲しみと怒りがないまぜになり、私はすごい勢いでまくし立てた。
「い、いや、そうは言ってないでしょ? これはあくまでも、可能性の問題であって」
たじたじとなるおじさん刑事。
私みたいに大人しそうな地味系の娘が、ここまで反論するとは思っていなかったのだろう。
目を白黒させて、また額の汗をハンカチで拭い始めた。
「たんなる可能性で、人を犯人扱いしないでください。それって、完全なる人権侵害じゃないですか。あ、そうだ、そんなに言うなら」
私はそこでふと思いついて、更に意気込んだ。
「そこまで私を疑うのなら、明日の授業後、うちの学校の生徒会室に来ていただけませんか? 私が犯人じゃないこと、証明してみせますから」
「え? それは、いったい…どういうこと?」
「私の友だちの翔ちゃんが、言ったんです。明日、トリックを暴いて、犯人に自白させてみせるって」
「はあ?」
「だから、生徒会室に、みんな集まるんです。あの時C棟にいたみんなが」
「それは、何かね? ひょっとして、探偵ごっこか何かかね?」
薄ら笑いを口元に浮かべるおじさん刑事。
「ごっこかどうかは、明日になればわかると思います。とにかく、真相が知りたかったら、ぜひ来てください」
「まあ、時間があればね」
完全に私を馬鹿にしている表情だ。
「わかったら、もう帰って」
私はテーブルをばんと叩いた。
「俺も、もう部屋に戻っていいかな」
俊が気だるそうに言う。
「なんだか、急に、疲れちまった。熱、出てきたみたい」
「はいはい、そういうことなら」
及び腰で、おじさん刑事が立ちあがった。
イケメンのほうがパタンと手帳を閉じる。
刑事たちを玄関まで送っていった母が、戻って来るなり、私に言った。
「絵麻はちょっと待ってて。私からも、話しておきたいことがあるから」
私は階段を見上げた、
俊はすでに自分の部屋に引き上げた後だった。
何のてらいもなく、俊は言った。
「同じ部屋の、高等部の先輩をね。だから、告白した。それの、何が悪い?」
悪くはない。
人を好きになること。
それは私たちに与えられた数少ない自由だ。
悪いなんてことが、あるはずない。
その相手が…。
そう、たとえ、同性でも。
英光学園と言えば、全寮制の男子校である。
つまり、俊の恋の相手は、ふたつ年上の男子高校生だったというわけだ。
残念ながら、俊の恋した相手は、まるでホモセクシャルに理解のない人間だったらしい。
-男にコクられたー
その先輩が面白半分にラインで発したひと言が、学校中に拡散するのに長くはかからなかった。
翌日から猛烈ないじめが始まった。
すっかりホモ扱いされた俊は、クラスどころか学校じゅうから孤立した。
ゴールデンウィーク前、俊が突然帰ってきて『休学宣言』をしたのは、そういうわけだったのだ。
頭がくらくらした。
俊の顔をまともに見ていられず、私は視線をテーブルの上に落とした。
ショックじゃない、といったら、まるっきりの嘘になる。
俊が、同性愛者…?
そんなこと…あって、いいはずがない。
もしそれが本当なら、私は…。
「いや、あのサイトを色々分析してるうちにね、いちばん最近の記事が、どうやら絵麻ちゃん、キミに当てられたものじゃないかってことになって、それでお兄さんの事件にたどり着いたというわけなんだよ。それで、もう一度聞きたいんだが、その…お兄さんが休学した理由、本当はキミ、知ってたんじゃないのかい? それをインターネット上でばらされそうになって、キミは焦った。敬愛する兄のために、どうにかして止めたいと思った。だからあの日、被害者の柊美沙さんを、屋上に呼び出したんじゃないかな。そう、口止めするつもりで」
俊が話し終えるのを待っていたかのように、おじさん刑事のほうが言った。
これではまるで誘導尋問だ。
虚偽の自白による冤罪は、おそらくこうして生まれるのだろう。
が、私は引っかからなかった。
「それでもみ合ってるうちに、私が美沙を突き落としたとでも? 冗談はやめてください。この前もお話ししたように、誘ってきたのは、美沙のほうからなんです。それに結局、あの子は現れなかった。これも本当です。第一、私がやったっていう証拠はあるんですか? 美沙が私の髪の毛を握って死んでいたとか、屋上にもみ合ったような跡が残ってたとか?」
悲しみと怒りがないまぜになり、私はすごい勢いでまくし立てた。
「い、いや、そうは言ってないでしょ? これはあくまでも、可能性の問題であって」
たじたじとなるおじさん刑事。
私みたいに大人しそうな地味系の娘が、ここまで反論するとは思っていなかったのだろう。
目を白黒させて、また額の汗をハンカチで拭い始めた。
「たんなる可能性で、人を犯人扱いしないでください。それって、完全なる人権侵害じゃないですか。あ、そうだ、そんなに言うなら」
私はそこでふと思いついて、更に意気込んだ。
「そこまで私を疑うのなら、明日の授業後、うちの学校の生徒会室に来ていただけませんか? 私が犯人じゃないこと、証明してみせますから」
「え? それは、いったい…どういうこと?」
「私の友だちの翔ちゃんが、言ったんです。明日、トリックを暴いて、犯人に自白させてみせるって」
「はあ?」
「だから、生徒会室に、みんな集まるんです。あの時C棟にいたみんなが」
「それは、何かね? ひょっとして、探偵ごっこか何かかね?」
薄ら笑いを口元に浮かべるおじさん刑事。
「ごっこかどうかは、明日になればわかると思います。とにかく、真相が知りたかったら、ぜひ来てください」
「まあ、時間があればね」
完全に私を馬鹿にしている表情だ。
「わかったら、もう帰って」
私はテーブルをばんと叩いた。
「俺も、もう部屋に戻っていいかな」
俊が気だるそうに言う。
「なんだか、急に、疲れちまった。熱、出てきたみたい」
「はいはい、そういうことなら」
及び腰で、おじさん刑事が立ちあがった。
イケメンのほうがパタンと手帳を閉じる。
刑事たちを玄関まで送っていった母が、戻って来るなり、私に言った。
「絵麻はちょっと待ってて。私からも、話しておきたいことがあるから」
私は階段を見上げた、
俊はすでに自分の部屋に引き上げた後だった。
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