背徳の獣たちの宴

戸影絵麻

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第2章 浮遊する死者

#5 美少女探偵登場

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 薄闇を背景に佇む、長身のすらりとしたシルエット。

 門柱の陰から姿を現した矢守翔子は、なんだかびっくりするほど絵になる少女だった。

 その中学生離れした伸びやかな肢体。
 
 スカートは規定の長さなのに、足が長すぎるため、ミニ丈に見える。
 
 風になびく長い髪は、まるでシャンプーのCMみたい。
 
 その間から覗く小さめの顔は、形のいい額と相まって、すごく理知的な印象だ。

「なんか、他人とは思えなくってさ」

 門柱から背を離し、私のほうにゆっくり歩いてくると、目の前で足を止めて、少女が言った。

「どうして?」

 ついつられて、私は訊き返していた。

「だって、トカゲとヤモリでしょ? 親戚みたいなものじゃない」

 冗談とも本気ともつかぬ口調でそう言うと、少女が右手を差し出した。

「私は矢守翔子。よろしくね」

 握手を求められているのだとわかるまでに、しばらく時間がかかった。

 私はどうしていいかわからず、目の前の眼鏡美少女から視線をそらした。

 ただでさえ、他人と関わりの薄い私である。

 握手なんて、したことがなかったからだ。

「警戒しなくてもいいよ」

 私の手を強引に取って強く握ると、矢守翔子が笑った。

「私、トカゲちゃんのこと、犯人だなんて思ってないから」

「あ、当たり前でしょ」

 私はあわてて手を引っ込めた。

「私はただ屋上に居ただけで、何にもやってないんだから」

「そうだね。あれが他殺だとすると、あなたに限らず、校舎に残っていた全員に犯人の可能性があるもんね。さすがに職員室に居た教頭たちは除くにしても、木崎先生なんかも怪しいといえば、怪しいよね」

 校舎のほうを振り返って、矢守翔子が言った。

 私たちが刑事たちに色々訊かれているうちに、美沙の死体はなくなっていた。

 きっと救急車が運んで行ったのだろう。

 死体が落ちていたあたりに、黄色と黒の立ち入り禁止テープだけが張り巡らされていて、今は警官や教師たちの姿もない。

「先生が?」

 意表を突かれるとは、このことだった。

 先生に声をかけられたのは、美沙が落ちた音がして、しばらく経ってからのことである。

 そうか。

 私はひらめいた。

 もし、先生が4階にいて、それから屋上に上ってきたのだとしたら。

 美沙を突き落とし、窓を内側から締め、そのままその足で何食わぬ顔をして屋上に姿を現す。

 そんな芸当も決して不可能ではなかったはずだ。

 いや、大人の力なら、あの三頭身で小柄な美沙を窓から投げ落とすことなんて、きっと楽勝だったに違いない。

「色々気になることがあるのよね」

 矢守翔子はじっと校舎を見上げている。

「ね、トカゲちゃん、よかったら私と一緒に、探偵してみない?」

 ふいに振り向くと、いたずらっぽい表情で、そんなことを言った。

「探偵?」

 変な子だ。

 何を言い出すかと思ったら…。

「不謹慎だよ。そういうのって」

 冷たく言い返してやった。

「わかってる」

 矢守翔子が真顔に戻って、うなずいた。

「でもね。気が済まないの」

 かなり上から私の目をのぞき込むと、自分に言い聞かせるように、つぶやいた。

「パズルでも、数学の問題でも、与えられた謎は解かないと、私、気が済まないたちなのよ」




 
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