激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【虐殺編】

戸影絵麻

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第4部 暴虐のカオス

#11 ヘヴィ・ローテーション①

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 悲鳴が、由羅の鼓膜をつんざいた。
 意識が戻ってきた。
 薄目を開ける。
 肩が痛んだ。
 両腕の自由が利かない。
 壁に、太い鋼鉄の鎖でつながれているのだ。
 全裸だった。
 冬美に抱かれたときの姿のままである。
 足だけで立ち上がろうとした。
 が、力が入らない。
 ぼんやりと由羅は思い出した。
 昨夜、冬美との"情事"の後、全くの無防備でいるところを零に襲われたのだ。
 注射器で麻酔薬のようなものを打たれ、気を失い、気づいたら拷問を受けていた。
 あのときの薬の影響が、まだ体に残っているのかもしれなかった。
 髪の毛で天井から吊るされ、三角形の台の上に坐らせられるという、かなり酷いめに遭った記憶がある。
 "木馬責め"というやつだ。
 だが、体をひねって局部に目をやった由羅は、傷がほとんど治癒しているのを見て、呆然とした。
 透明な粘液が、内股から太腿にかけて残っている。
 杏里だ。
 杏里が助けてくれたのだ。
 現実感が戻ってくるにつれ、由羅は周囲の状況の異様さに思わず息を呑んだ。
 薄暗く、広い空間である。
 向かって左手にパイプ椅子が並んでいる。
 そこに、由羅と同じくらいの年恰好の少年や少女が、20人ほど腰かけている。
 どれも学校で見かけたことのある顔ばかりだ。
 これ・・・。
 2年1組の連中じゃないか。
 すぐに、由羅はその事実に思い至った。 
 でも、こいつら、いったい何をしてる?
 注意して探してみたが、杏里の姿だけ、ない。
 嫌な予感がした。

 奇妙なのは、男も女も全員服を着ていないことだった。
 みんな真っ裸で、何かに憑かれたように、一点を凝視している。
 右手は一段高いステージになっていた。
 その上に奇怪な物体がいくつも設置されている。
 やがて由羅は、中学生たちの視線が、西洋の甲冑のような金属製の装置に注がれていることに気づいた。
 下半身がスカートのようにふくらんだその人形は、よく見ると女のかたちをしていた。
 大人の男より、頭ひとつ高いくらいの大きさである。
 そして、その前に全裸の零が立っていた。
 真っ白い裸身に、乳房を隠すように伸びた黒い髪。
 かすかにだが、また悲鳴が聞こえた。
 二の腕にざわりと鳥肌が立つのがわかった。
 悲鳴は、金属性のその人形から聞こえたような気がしたのだ。

「さあ、どうなったか。見てみましょう」
 場違いによく通る声で零がいい、人形の前面についている取っ手を引いた。
 由羅の背丈ほどもある人形のスカート部分が、ゆっくりと開き始める。
 生徒たちがどよめいた。
「う」
 由羅は苦悶の呻きを飲み込んだ。
 人形の中に、杏里がいた。
 白いブラウス、チェックのスカート、むき出しの2本の足。
 そのすべてに真っ赤な花が咲いているように見える。
 が、由羅はすぐにその正体に気づき、吐きそうになった。
 杏里の体を、何十本もの長い棘が刺し貫いているのだ。
 花に見えたのは、血だった。
 杏里の顔は苦痛に歪んでいる。
 目を閉じ、固く歯をくいしばっている。
「まあ、奇麗」
 零が歓声を上げた。
 そして、杏里の体を中から引きずり出した。
 肉が弾ける嫌な音とともに、杏里がよろめき出る。
「気分はどう?」
 零が杏里の肩を支え、その顔を下から覗き込む。
 杏里がゆるゆると首を横に振る。
「そう、そんなによかった?」
 零の手が杏里のブラウスを引き裂いた。
 丸みを帯びた、ふくよかな上半身が顕わになった。
 が、肌は穴だらけだった。
 体中に1円玉大の穴が開き、どろりと血の筋を引いている。
 零が杏里のブラジャーをむしりとった。
 あの形の良い豊かな乳房にも、穴が開いてしまっている。
 杏里・・・。
 由羅はうめいた。
 しかし、依然として足には力が入らず、両手は壁に繋がれたままだ。
「皆さんのアイドル、杏里ちゃんはまだまだ元気なようですね」
 零が学芸会のパロディのような、ふざけた口調でいった。
「さて、"鉄の処女"の次は、かの有名な吸血鬼ドラキュラのモデル、トランシルバニアのヴラド公が発明した、"あれ"を実演してみたいと思います」
 "あれ"?
 あれってなんだよ?
 由羅はもがいた。
 体をよじるだけで肩を脱臼しそうになる。
 零が杏里の両手を、天井から下がったロープに固定するのが見えた。
 両足首にそれぞれ別々のロープがかけられる。
 零が壁際のハンドルを回す。
 杏里の体がロープに引かれ、徐々に上昇していく。
 両手を真上に伸ばし、両脚を水平にV字型に開いた格好で、床上3メートルほどの高さで停まった。
 開いた股間を観客席に向けている。
 スカートが短いので、白いパンティが丸見えになっていた。
「今度の拷問アイテムは、これです」
 零がいって、鉄の処女の陰から高さ1メートルほどの鉄の棒を取り出した。
 先端が尖った、いわば特大サイズの針である。
 コンクリートの台座に固定されたそれを、杏里の真下に据えた。
 ハンドルを逆に回し、杏里の体を下げる。
 肛門の真下に先端がくるように、棒の位置を調節しているのだ。
「ヴラド公が、"串刺し公"と呼ばれたのはこの拷問方法を好んだからだといわれています。ドラキュラというのは、もともと『串刺し『という意味だそうですから」
 由羅は顔から血の気が引くのを感じた。
 これはひどい、と思った。
 この"串刺し"に比べれば、由羅が受けた木馬責めなど可愛いものだった。
「彼は、この方法で何千人もの生贄を同時に串刺しにしながら、食事を楽しんだそうです。私もそれにあやかって、少々楽しもうと思うのですが、いかがでしょうか」
 零が芝居がかった口調でいった。
 杏里はおかしな格好で宙吊りにされたまま、ぴくりとも動かない。
 全身穴だらけにされたショックで、気を失いかけているのかもしれなかった。
「あなた、こっちへ」
 零が観客席の一角を指差した。
 ふらりと、少女がひとり、立ち上がった。
 アイドルのような可愛らしい顔立ちをした、小柄な少女だった。
 もちろん全裸である。
 発育途上にある体にはまだ固さが残っているが、少女から女になる過渡期の者だけが発散する、微妙な猥褻さを身に纏っていた。
「それから、君も」
 操り人形のように、ふたりめが立ち上がる。
 今度は男子だった。
 こちらも西洋人形のように、奇麗な顔立ちをしている。
 中性的な体つきをしているが、猛り立った男性器だけは立派に大人のサイズと形状をしていた。
 ふたりをステージに上げると、零はまず少女を跪かせた。
 その上に跨り、顔を上向かせる。
「舐めて」
 股間を少女の顔にすりつけた。
「君はこうして、私の胸を」
 少年を背後に回らせ、両手を自分の乳房に導いた。
 少年が零の胸を愛撫しながら、首筋を吸い始める。
「いいわ」
 ねっとりと、零が微笑んだ。
「それでは、準備が整ったところで、"串刺しの刑"を執行します」
 右腕を伸ばし、壁のハンドルの取っ手を握る。
 回した。
 がくんと、杏里の体が下がる。
 針の先が、スカートの中に消えた。
 杏里が突然目を剝き、大きく頭部をのけぞらせた。
 たわわな胸が揺れると同時に、
 血がしぶいた。
 太く長い針を、杏里の肛門から噴き出した血が、どろどろと伝い始める。
 由羅は目の前が絶望で暗くなるのを感じた。
「杏里・・・」
 ようやく声が出た。
 頭の中でつぶやいた。
 マジかよ・・・。
 なんでこんなひどいことに。
 うちのせいだ。
 悔恨の情が胸をえぐった。
 うちを囮に、呼び出されたんだ。
 杏里。
 ごめん。
 くそ!
 
「杏里!」
 力の限り、叫んだ。
「やめろ! 零!」
 が、その声をかき消すように、次の瞬間、杏里の絶叫がホールにこだました。
 

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