激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【虐殺編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
11 / 35
第4部 暴虐のカオス

#10 サバト④

しおりを挟む
 いつのまにか由羅の出血は止まっていた。
 肌はまだパトスのぬくもりを欲しがってヒクヒクしていたが、杏里は未練を断ち切り、体を離した。
 由羅はまだ目を覚まさない。
 そっとそのスレンダーな裸身を床に横たえると、窓に駆け寄った。
 逃げられるなら、由羅をつれて逃げよう、と思ったのだ。
 が、窓を開けて杏里は絶望の縁に叩き落された。
 ガラス窓の向こうは鉄格子だった。
 その奥には更に分厚い鉄の板が打ちつけられている。
 健康体の由羅ならなんとかぶち破れるかもしれない。
 だが、非力な杏里には無理な相談だった。
「逃げられないっていったでしょ」
 ふいに声をかけられ、杏里は危うく叫びそうになった。
 振り向くと、戸口に零が立っていた。
 黒一色の衣装が、ひどく禍々しい。
「あなた、他人も治せるのね」
 気を失ったままの由羅を見下ろして、少し感心したようにいった。
「まあいいわ。さ、準備にかかりましょ」
 零は由羅を抱き上げると、ステージの端に運んだ。
 太い鋼鉄の鎖が2本、壁から垂れ下がっている。
 その先端に、やはり鋼鉄の輪がついていた。
 由羅の両手首に、その手錠を嵌めた。
 由羅は、両手を鎖につながれて、壁に背をもたせかけ、床に坐る格好になった。
「ここからなら、ショーの一部始終が見えるはずだわ」
 鎖につながれてうなだれたままの由羅を見下ろして、零が満足そうに微笑んだ。
「さ、次はあなたの番。まず、これを飲んで」
 錠剤を2錠、杏里の掌に乗せた。
「これは?」
「下剤。胃と腸の中をきれいにしておくの。誰に見られても、はずかしくないようにね。出すものがなくなったら、お風呂に入りなさい。シャワーだけじゃだめよ。体中を念入りに洗ってね。ヴァギナもアナルもきれいにね」
 杏里は茫然と掌の中の錠剤を見つめた。
 そんなにまでして、わたしに何をさせようというのだろう?
 鳥肌が立つのがわかった。
 目の前の零のことが、不気味でならなかったのだ。

 それからの2時間ほどは、苦痛の連続だった。
 水のように透明な便が出るようになるまで、杏里はトイレと風呂場を何度も往復しなければならなかった。
 素っ裸で廊下をうろつくさまは、自分でもけものになったみたいで恥ずかしくなった。
 ようやく便意も治まり、湯船にゆっくりつかっているときだった。
 外の廊下が急に賑やかになってきた。
 大勢の足音が、奥の"宴会場"へと向かって行く。
「客が来たわ」
 風呂場のアコーデオンドアの陰から顔を出して、零がいった。
「さあ、出番よ。体を拭いたら、出てきなさい」
 脱衣場には、制服のブラウスと下着、スカートが置かれていた。
「最初は着ててもいいわ」
 杏里が下着を身につけ始めるのを眺めながら、零がいった。
「といっても、どうせすぐに汚れちゃうでしょうけどね」

 零の後に続き、ホールに足を踏み入れた杏里は、その場に金縛りに遭ったように立ち竦んだ。
 右手の観客席は、見慣れた顔でいっぱいだった。
 2年1組に生徒たちである。
 期待に満ちたまなざしで、杏里と零を一斉に見つめてきた。
 予想はしていたことだったが、全員そろっていることが悲しかった。
 そんなにわたしが憎いの?
 そう叫びだしたかった。
 零がまず、ひとりで左手のステージに上がっていった。
 観衆のほうに向き直ると、意外によく通る声でいった。
「ようこそ、皆さん。私は3組の黒野零。会ったことのある人もいるかしら。私は、皆さんと目的を同じにする者です」
 にっと微笑み、お辞儀をする。
「今夜は、皆さんもよくご存知のある少女をサカナに、世にも珍しいショーをお目にかけようと思います。普通では絶対に見られない、美しくて、最高にエロチックなショーです。そのためには、皆さんのほうにも、準備が必要です。ショーの前に、まず、全員、服を脱いでください。ほら、こんなふうにね」
 いうなり、零が、スカートを落とし、黒いセーラー服を脱ぎ捨てた。
 隠花植物のような、真っ白な裸身が現れる。
 つんととがったバスト。
 平たい腹。
 太腿の間の淡い体毛が、ひどく艶かしい。
 生徒たちの中にざわめきが起こる。
 零に当てられたのか、最初に女子が数名、裸になった。
 ためらっていた男子が、ひとりふたりとそれにつづく。
 男子は誰もがすでに陰茎を固くしているようだった。
 全員が脱ぎ終えるのを確かめると、零がステージの下に佇んでいた杏里を引っ張り上げ、観衆の前に引き出した。
「皆さん、準備はいいみたいね。さ、こちらがきょうの主役、笹原杏里です。虐待されるためにこの世に生まれてきた女、それが彼女です。彼女のために、私はすてきなプレゼントを用意しました。まずは、これ、『鉄の処女』」
 等身大の甲冑の前に、零が杏里を立たせた。
「知っている人、いますか? これはほら、こんなふうに前が開きます」
 零の白い手が、甲冑のスカートに当たる部分を手前に引いた。
 どよめきが起こる。
 杏里は顔から血の気が引くのを感じた。
 甲冑の中は空洞だった。
 人ひとりがやっと入れるほどの広さである。
 が、ただの空洞ではなかった。
 内側の壁から、無数の針が突き出しているのだ。
「ここにあるのは、中世ヨーロッパの異端審問で実際に使われた拷問道具ばかりです。人類の邪悪な智恵が生み出した歴史的暴虐に、私たちの杏里がどれだけ耐えられるか、さ、皆さん、私と一緒に楽しみましょう!」
 ふいに零の手が杏里を押した。
 抵抗する間もなかった。
 杏里は背中から『鉄の処女』の中に倒れこんだ。
 蓋が閉まってくる。
 その蓋の内側にも棘がびっしり生えているのを見て、杏里は悲鳴を上げた。 


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ショクザイのヤギ

煤原
ホラー
何でも屋を営む粟島は、とある依頼を受け山に入った。そこで珍妙な生き物に襲われ、マシロと名乗る男に助けられる。 後日あらためて山に登った粟島は、依頼を達成するべくマシロと共に山中を進む。そこにはたしかに、依頼されたのと同じ特徴を備えた“何か”が跳ねていた。 「あれが……ツチノコ?」 ◇ ◆ ◇ 因習ホラーのつもりで書き進めていたのに、気付けばジビエ料理を作っていました。 ホラーらしい覆せない理不尽はありますが、友情をトッピングして最後はハッピーエンドです。

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇気と巫女の八大地獄巡り

主道 学
ホラー
 死者を弔うために地獄を旅する巫女と、罪を犯して死んだ妹を探すために地獄マニアの勇気が一緒に旅をする。    勇気リンリンの地獄巡り。  ホラーテイスト&純愛ラブストーリーです。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...