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8 接近
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ブースから出て、浴場側に回ると、
「うわあ、きれい!」
マリが目を輝かせて喜びの声を上げた。
それほど広くない石張りの床に、一辺が10メートルほどの正方形の湯船が埋め込まれている。
お湯は透明だが、かすかに硫黄の匂いが鼻をつく。
正面は壁一面の窓になっていて、真っ青な空と遠くの山並みが見えている。
私たちは湯船に飛び込むと、ばしゃばしゃとお湯を跳ね散らかせて窓辺に突進した。
「山が見えるよ~。その向こうに海も」
「いいお天気でよかったね。こんな景色見ながら温泉につかれるなんて、最高だね」
「カメラ、ちゃんと映ってる?」
「うーん、こっちだと逆光でダメっぽい」
仕方なく、窓側にデジカメを仕掛けておいて反対側に戻り、ふたり肩を並べて湯に入る。
「ちょうどいい温度だね。予想より熱くない」
「広くて気持ちいい~。うちのお風呂とは大違い」
マリが足を伸ばしてバシャバシャ湯を跳ねる。
湯船は浅く、底にお尻をつけて座るとちょうど肩の高さに水面が来るぐらい。
透明度が高いから、水面下に沈んだ私とマリの手足の色の違いがよくわかる。
「それにしても白いね。マリのお肌、本当にうらやましい」
「ナナこそなんでそんなに黒いの? 脚なんか太腿まで日焼けしちゃってる」
「それ、スカートの跡だよ。外に出てるところがそのまんま焼けちゃってるだけ」
「えー、ふだん、こんな短いの穿いてるんだ」
「穿いてるね」
「露出多すぎだよ~」
「外、暑いから」
たわいのない会話を交わしながら、私はマリに身体を寄せていく。
つかの間訪れる、ぎこちない空白。
密着しすぎたのに気付いたのか、
「なになに~? なんか、ビミョーにくっつきすぎてない? ナナ、ちょっと変だよ~」
マリがはだけそうになったタオルを直して笑い出す。
私は焦ると同時に、我慢できなくなった。
胸が痛い。
喉から心臓が飛び出しそう。
賭けに出る覚悟で、訊いてみる。
「ねえ、マリ」
「なに?」
「チューしてもいい?」
しばしの沈黙の後、
「え~、チュー? ここで~?」
マリがまた笑い出した。
「ナナったら、急にどうしたの?」
「したくなっちゃった」
はやる心を抑え、正直に私は言った。
「ずっと、したかったんだよ」
自然と早口になっていた。
「そんなのあるかなあ~。今ここで~?」
マリはまだ笑っている。
「だめ?」
口調に力がこもるのがわかった。
知らず知らずのうちに、必死になっていた。
マリを見つめる目に、涙がにじむ。
「だめじゃないけど…、まあ、ふたりっきりだし、ね」
「貸し切りだから、誰も来ないよ」
「…いいよ。じゃあ、時間切れになる前に」
マリが笑いを収め、真顔になって私を見た。
私は心の中で快哉を叫んだ。
やった。
こみあげる歓喜の念。
やっと一歩、踏み出せたのだ。
「じゃ、行くよ」
私はわざと明るい調子で言って、マリの華奢な肩を裸の胸に引き寄せた。
「うわあ、きれい!」
マリが目を輝かせて喜びの声を上げた。
それほど広くない石張りの床に、一辺が10メートルほどの正方形の湯船が埋め込まれている。
お湯は透明だが、かすかに硫黄の匂いが鼻をつく。
正面は壁一面の窓になっていて、真っ青な空と遠くの山並みが見えている。
私たちは湯船に飛び込むと、ばしゃばしゃとお湯を跳ね散らかせて窓辺に突進した。
「山が見えるよ~。その向こうに海も」
「いいお天気でよかったね。こんな景色見ながら温泉につかれるなんて、最高だね」
「カメラ、ちゃんと映ってる?」
「うーん、こっちだと逆光でダメっぽい」
仕方なく、窓側にデジカメを仕掛けておいて反対側に戻り、ふたり肩を並べて湯に入る。
「ちょうどいい温度だね。予想より熱くない」
「広くて気持ちいい~。うちのお風呂とは大違い」
マリが足を伸ばしてバシャバシャ湯を跳ねる。
湯船は浅く、底にお尻をつけて座るとちょうど肩の高さに水面が来るぐらい。
透明度が高いから、水面下に沈んだ私とマリの手足の色の違いがよくわかる。
「それにしても白いね。マリのお肌、本当にうらやましい」
「ナナこそなんでそんなに黒いの? 脚なんか太腿まで日焼けしちゃってる」
「それ、スカートの跡だよ。外に出てるところがそのまんま焼けちゃってるだけ」
「えー、ふだん、こんな短いの穿いてるんだ」
「穿いてるね」
「露出多すぎだよ~」
「外、暑いから」
たわいのない会話を交わしながら、私はマリに身体を寄せていく。
つかの間訪れる、ぎこちない空白。
密着しすぎたのに気付いたのか、
「なになに~? なんか、ビミョーにくっつきすぎてない? ナナ、ちょっと変だよ~」
マリがはだけそうになったタオルを直して笑い出す。
私は焦ると同時に、我慢できなくなった。
胸が痛い。
喉から心臓が飛び出しそう。
賭けに出る覚悟で、訊いてみる。
「ねえ、マリ」
「なに?」
「チューしてもいい?」
しばしの沈黙の後、
「え~、チュー? ここで~?」
マリがまた笑い出した。
「ナナったら、急にどうしたの?」
「したくなっちゃった」
はやる心を抑え、正直に私は言った。
「ずっと、したかったんだよ」
自然と早口になっていた。
「そんなのあるかなあ~。今ここで~?」
マリはまだ笑っている。
「だめ?」
口調に力がこもるのがわかった。
知らず知らずのうちに、必死になっていた。
マリを見つめる目に、涙がにじむ。
「だめじゃないけど…、まあ、ふたりっきりだし、ね」
「貸し切りだから、誰も来ないよ」
「…いいよ。じゃあ、時間切れになる前に」
マリが笑いを収め、真顔になって私を見た。
私は心の中で快哉を叫んだ。
やった。
こみあげる歓喜の念。
やっと一歩、踏み出せたのだ。
「じゃ、行くよ」
私はわざと明るい調子で言って、マリの華奢な肩を裸の胸に引き寄せた。
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