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4 高原

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 新幹線の駅から、バスに揺られて高原へ。
 あまり有名な観光地ではないから、人出は多くない。
 ディズニーランドやUFJでもよかったけれど、せっかくのふたり旅。静かで落ち着ける所に来たかったのだ。
「うわあ、森だあ」
 歩きながら、マリが言う。
「木がいっぱい」
 当たり前のことでも、マリが口にすると、可愛いから許せてしまう。
「暑いね」
 私は額ににじむ汗を手の甲で拭った。
「夏だよ、これはもう」
「そうだね。夏だね」
 マリが笑う。
 笑うとマリは目がなくなるけど、そこがまた可愛くて私は好きだ。
「座ろうか」
 30分ほど高原を散策すると、花で埋まった花壇の隅にベンチを見つけた。
「うん、座ろ座ろ。たくさん歩いたもん」
「花がきれい」
「何の花かな?」
「花をバックに写真撮ろう」
「あ、それいいね」
 自撮り棒にスマホをつけて、ふたりで写しっこする。
 もちろんその間も、デジカメは回したままだ。
 満足いくまで写真を撮り合って、ベンチに戻る。
「あの、マリさあ」
 思い切って、私はたずねる。
「今、つきあってる人、いる?」
 訊きたくて訊きたくてたまらなかったことだ。
「つき合ってる人? あれから、いないよ~」
 笑いながら、マリが否定する。
「じゃあ、気になってる人とかは?」
「う~ん、それもいないかな」
「そうなんだ」
 うれしさがこみ上げてきた。
「マリ、いないんだ」
 すごく、胸がどきどきする。
「ナナは?」
「いないよ」
「え~、訊いてくるから、いるのかと思った」
「いないいない。うちは気になったから、訊いただけ」
 そうだよ。マリ。
 気になって気になって、仕方がなかったの。
「そうかあ。ナナもいないんだあ」
 マリはにこにこしている。
 喜んでくれてるのだろうか。
 そうだといいけど。
「社会人になるとさあ、出会い、ないよね」
「そうだね。学生時代に比べると、ないよね」
 会話が途切れた。
 マリは少し寂しそうに見える。
「暑いね」
「うん、暑い暑い」
 またこの話題に戻る。
「それにしても、マリ、色白いね」
「画面越しに見ると、よくわかるね」
 ふたり、腕を並べて比べてみる。
 私の腕は小麦色で、腕時計を嵌めていた部分だけ、帯のように白い。
 それに比べて、マリの腕はノースリーブから出たつけ根から指の先まで真っ白だ。
「ほんと、うらやましいよ、この肌」
 いつのまにか、私はマリの手に自分の指を絡めていた。
「今、気づいちゃったんだけど」
 マリが照れくさそうに笑い出す。
「知らないうちに、手、つながれちゃってる」
「ふふ、つないじゃった。手つなぎデート」
「この暑いのに、お手々つないで?」
「公園デートだよ」
「公園デート?」
「そう。で、これから、うちら、温泉に入るんだよ」
「え~、温泉? なにそれ~?」
「この暑さなら、ちょうどいいと思わない?」
「いいね。汗、流せるね」
「貸し切りだよ。予約しておいた」
「すご~い」
 もう少し。
 マリの指の感触を味わいながら、私は思う。
 もう少し我慢すれば…。
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