6 / 23
4 高原
しおりを挟む
新幹線の駅から、バスに揺られて高原へ。
あまり有名な観光地ではないから、人出は多くない。
ディズニーランドやUFJでもよかったけれど、せっかくのふたり旅。静かで落ち着ける所に来たかったのだ。
「うわあ、森だあ」
歩きながら、マリが言う。
「木がいっぱい」
当たり前のことでも、マリが口にすると、可愛いから許せてしまう。
「暑いね」
私は額ににじむ汗を手の甲で拭った。
「夏だよ、これはもう」
「そうだね。夏だね」
マリが笑う。
笑うとマリは目がなくなるけど、そこがまた可愛くて私は好きだ。
「座ろうか」
30分ほど高原を散策すると、花で埋まった花壇の隅にベンチを見つけた。
「うん、座ろ座ろ。たくさん歩いたもん」
「花がきれい」
「何の花かな?」
「花をバックに写真撮ろう」
「あ、それいいね」
自撮り棒にスマホをつけて、ふたりで写しっこする。
もちろんその間も、デジカメは回したままだ。
満足いくまで写真を撮り合って、ベンチに戻る。
「あの、マリさあ」
思い切って、私はたずねる。
「今、つきあってる人、いる?」
訊きたくて訊きたくてたまらなかったことだ。
「つき合ってる人? あれから、いないよ~」
笑いながら、マリが否定する。
「じゃあ、気になってる人とかは?」
「う~ん、それもいないかな」
「そうなんだ」
うれしさがこみ上げてきた。
「マリ、いないんだ」
すごく、胸がどきどきする。
「ナナは?」
「いないよ」
「え~、訊いてくるから、いるのかと思った」
「いないいない。うちは気になったから、訊いただけ」
そうだよ。マリ。
気になって気になって、仕方がなかったの。
「そうかあ。ナナもいないんだあ」
マリはにこにこしている。
喜んでくれてるのだろうか。
そうだといいけど。
「社会人になるとさあ、出会い、ないよね」
「そうだね。学生時代に比べると、ないよね」
会話が途切れた。
マリは少し寂しそうに見える。
「暑いね」
「うん、暑い暑い」
またこの話題に戻る。
「それにしても、マリ、色白いね」
「画面越しに見ると、よくわかるね」
ふたり、腕を並べて比べてみる。
私の腕は小麦色で、腕時計を嵌めていた部分だけ、帯のように白い。
それに比べて、マリの腕はノースリーブから出たつけ根から指の先まで真っ白だ。
「ほんと、うらやましいよ、この肌」
いつのまにか、私はマリの手に自分の指を絡めていた。
「今、気づいちゃったんだけど」
マリが照れくさそうに笑い出す。
「知らないうちに、手、つながれちゃってる」
「ふふ、つないじゃった。手つなぎデート」
「この暑いのに、お手々つないで?」
「公園デートだよ」
「公園デート?」
「そう。で、これから、うちら、温泉に入るんだよ」
「え~、温泉? なにそれ~?」
「この暑さなら、ちょうどいいと思わない?」
「いいね。汗、流せるね」
「貸し切りだよ。予約しておいた」
「すご~い」
もう少し。
マリの指の感触を味わいながら、私は思う。
もう少し我慢すれば…。
あまり有名な観光地ではないから、人出は多くない。
ディズニーランドやUFJでもよかったけれど、せっかくのふたり旅。静かで落ち着ける所に来たかったのだ。
「うわあ、森だあ」
歩きながら、マリが言う。
「木がいっぱい」
当たり前のことでも、マリが口にすると、可愛いから許せてしまう。
「暑いね」
私は額ににじむ汗を手の甲で拭った。
「夏だよ、これはもう」
「そうだね。夏だね」
マリが笑う。
笑うとマリは目がなくなるけど、そこがまた可愛くて私は好きだ。
「座ろうか」
30分ほど高原を散策すると、花で埋まった花壇の隅にベンチを見つけた。
「うん、座ろ座ろ。たくさん歩いたもん」
「花がきれい」
「何の花かな?」
「花をバックに写真撮ろう」
「あ、それいいね」
自撮り棒にスマホをつけて、ふたりで写しっこする。
もちろんその間も、デジカメは回したままだ。
満足いくまで写真を撮り合って、ベンチに戻る。
「あの、マリさあ」
思い切って、私はたずねる。
「今、つきあってる人、いる?」
訊きたくて訊きたくてたまらなかったことだ。
「つき合ってる人? あれから、いないよ~」
笑いながら、マリが否定する。
「じゃあ、気になってる人とかは?」
「う~ん、それもいないかな」
「そうなんだ」
うれしさがこみ上げてきた。
「マリ、いないんだ」
すごく、胸がどきどきする。
「ナナは?」
「いないよ」
「え~、訊いてくるから、いるのかと思った」
「いないいない。うちは気になったから、訊いただけ」
そうだよ。マリ。
気になって気になって、仕方がなかったの。
「そうかあ。ナナもいないんだあ」
マリはにこにこしている。
喜んでくれてるのだろうか。
そうだといいけど。
「社会人になるとさあ、出会い、ないよね」
「そうだね。学生時代に比べると、ないよね」
会話が途切れた。
マリは少し寂しそうに見える。
「暑いね」
「うん、暑い暑い」
またこの話題に戻る。
「それにしても、マリ、色白いね」
「画面越しに見ると、よくわかるね」
ふたり、腕を並べて比べてみる。
私の腕は小麦色で、腕時計を嵌めていた部分だけ、帯のように白い。
それに比べて、マリの腕はノースリーブから出たつけ根から指の先まで真っ白だ。
「ほんと、うらやましいよ、この肌」
いつのまにか、私はマリの手に自分の指を絡めていた。
「今、気づいちゃったんだけど」
マリが照れくさそうに笑い出す。
「知らないうちに、手、つながれちゃってる」
「ふふ、つないじゃった。手つなぎデート」
「この暑いのに、お手々つないで?」
「公園デートだよ」
「公園デート?」
「そう。で、これから、うちら、温泉に入るんだよ」
「え~、温泉? なにそれ~?」
「この暑さなら、ちょうどいいと思わない?」
「いいね。汗、流せるね」
「貸し切りだよ。予約しておいた」
「すご~い」
もう少し。
マリの指の感触を味わいながら、私は思う。
もう少し我慢すれば…。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる