散らない桜

戸影絵麻

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#28 捜索②

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 警部によると、それは次のような内容だったという。

 戦時中、瀬戸内海のある島で、秘密裏に新兵器の開発が進められていた。

 その詳細は不明だが、なにやら人体実験のようなものだったらしい。

 その被験者として登録されていた人物のひとりが、山田一郎という名前だったというのである。

 タレこんできたのは、自分も陸軍中野学校の出身だという、匿名の男性だった。

 彼の部署では、戦時中からその人体実験の情報をつかんでいて、行方を見守っていたのだという。

 そして、殺された蒲生氏も、その部署の職員だった…。

「確かに、僕らは色々な部署に分かれていて、さまざまな諜報活動を行っていたからね」

 いつの間にか煙草をくゆらせて、編集長が言う。

「でも僕が気になるのは、あれ以来増えている、猟奇殺人のほうですね」

「知っていたのか」

 警部が驚いたように編集長の横顔を見た。

「世間を騒がせないように、報道管制を敷いていたのだが。そもそも、被害者たちはみな身寄りのない者ばかりだし」

「僕を誰だと思ってるんです?」

 編集長が鯨のように煙を噴き上げた。

「こう見えても、在野の犯罪心理学者なんですよ。こんな生きのいいネタ、見逃すはずないじゃありませんか」 
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