散らない桜

戸影絵麻

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#18 戦禍の影に蠢くもの②

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「確かに奇妙な話だが…」

 編集長の説明を聞き終えると、しかつめらしく眉根を寄せて警部がつぶやいた。

 その目はじっと例の名簿の上に注がれている。

「しかし、それと今度の殺人と、一体何の関係があるというのですかな?」

 警部の話では、これは一種の密室殺人だということだった。

 被害者が倒れていた裏路地の入口は、屋台から常に見える位置にある。

 そして、蒲生氏が小用を足すと言ってそこに入っていって以来、誰も路地を出入りしていないというのである。

 そうなると、なるほど不思議だった。

 私もこの目で見たけれど、路地の突き当りは高さ3メートルほどもある木塀だ。

 古びた塀ではあったけど、穴も開いていなかったし、誰かが這い上った跡もついていなかったと思う。

 被害者は血だらけだったから、犯人もかなりの返り血を浴びていたと考えられる。

 けど、塀には蒲生氏の死体がもたれているあたりにしか、血は付着していなかったのだ。

「わかりません。もしかしたら、犯人は、その資料を取り返そうとしたのかもしれない」

 編集長のひと言に、私はぞっとして、思わず叫んでいた。

「え? そ、そんなあ! だって、それじゃあ、今度はうちらが危ないってことになるじゃないですか?」
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