散らない桜

戸影絵麻

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#15 裏路地の死者③

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「いったい、どういうことなんだ? これは?」
 
 またこのせりふ。

 編集長のこのせりふを聞くのは、これできょう、二回目だ。

「どうしたんですか?」

 だから返す私の返事も、自然、前と同じ言い回しにならざるをえなかった。

「見るな、見るんじゃない」

 制止の言葉を無視して編集長の肩越しに首を伸ばすと、問題の部分が見えてきた。

「うわっ」

 つい叫んでしまった。

 本当に、これはどういうことなのだろう。

 ぐったりと塀に寄りかかるようにして地面に座った蒲生氏は、下半身裸なのだ。

 しかも、その股間の部分が、べっとりと血で汚れている。

 血は太腿と太腿の間の一点から、どくどくと泉の水のように吹き出しているのである。

「あれが、ない」

 うめくように、編集長が言った。

「切り取られたんじゃない。根元から、食いちぎられているんだ」

「あ、あれって…?」

 本当は、訊くまでもなかった。

 私にもわかったのだ。

 噴き出る血の海の中、死体の股間に、明らかに性器が見当たらないことがー。

 

 
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