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エピローグ
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駆けつけてきた警官たちに救助され、芙由子と比奈は病院に収容された。
ふたりを監禁・凌辱した松村大翔の容疑はゆるぎないものだったが、警察が頭を抱えたのは彼の死についてだった。
ハルトはベランダに結びつけられたロープで縊死しており、事故死か他殺かあるいは自殺なのか、いっこうに判別がつかなかったからである。
芙由子の病室を巧が訪ねてきたのは、事件から3日ほど経ってからのことだった。
「あなたが殺したの?」
開口一番、芙由子はたずねてみた。
あの時、窓の鍵が開いていたことを知っていたのは、おそらく巧ひとりだろう。
巧なら、部屋の中に侵入して、ハルトを殺すことができたはず。
そして、ひょっとしたら、と今になって思うのだ。
岩崎正治を殺したのも、実は巧ではなかったのか、と。
「さあ」
が、巧は途方に暮れたように頭を掻くだけだった。
「それが、よく覚えていないんですよ。どうやら車の中でうとうとしちゃったらしくって、気がつくと、松村家の周りは警官でいっぱいで」
少しの変化も見逃さぬよう、表情を観察したつもりだったが、巧は露ほども不自然な素振りを見せなかった。
「まあ、いいんだけど。巧君が犯人であろうとなかろうと」
芙由子はしみじみと深いため息をついた。
岩崎正治も松村大翔も、純粋な悪意の塊だったのだ。
純粋な悪意は、滅びたほうがいいに決まっている。
それから半年。
元の養護施設に戻された比奈は少しずつショック状態を脱し、ようやく以前の自分を取り戻そうとしていた。
この半年間、ほぼ毎日施設に通った芙由子は、比奈を里親として預かる決意を固めていた。
念願の介護福祉士の資格を取得して新しい職場に変わり、里親としての審査にもパスする見込みが出てきたからである。
その日も芙由子は、待合室で比奈を待っていた。
やがて、女性職員に手を引かれて、比奈が姿を現した。
事件の直後は全身傷だらけで自閉症に陥っていた比奈だったが、今はすっかり落ち着いて持ち前の子どもらしさを取り戻していた。
「お絵描きしたんだよ」
何枚かの画用紙を差し出して、比奈が笑った。
「えー、すごーい、見せて」
芙由子が目を輝かせると、困惑したような表情で、横から女性職員が口をはさんできた。
「それが、へんてこな絵ばっかりなんですよ」
「へんてこな、絵?」
受け取った画用紙に、目を落とす。
クレヨンの原色が、視界に飛びこんできた。
長い竿の先につけた刃物で、若者が男の首の後ろを刺している。
次の絵は、大の字になった裸の女の姿である。
3枚目に描かれているのは、裸の女の上に覆い被さる男の首にロープを巻きつける若者の姿だった。
どうやら殺人を犯しているのは、1枚目に登場する若者と同一人物のようである。
不思議なのは、どちらも背中に白い羽根のようなものが生えていることだ。
「この人、だあれ?」
芙由子は、震える指で羽根の生えた若者を指差した。
「巧にいちゃん」
比奈が真顔で言った。
「巧にいちゃんは、比奈とふゆちゃんの守護天使なんだよ」
ふたりを監禁・凌辱した松村大翔の容疑はゆるぎないものだったが、警察が頭を抱えたのは彼の死についてだった。
ハルトはベランダに結びつけられたロープで縊死しており、事故死か他殺かあるいは自殺なのか、いっこうに判別がつかなかったからである。
芙由子の病室を巧が訪ねてきたのは、事件から3日ほど経ってからのことだった。
「あなたが殺したの?」
開口一番、芙由子はたずねてみた。
あの時、窓の鍵が開いていたことを知っていたのは、おそらく巧ひとりだろう。
巧なら、部屋の中に侵入して、ハルトを殺すことができたはず。
そして、ひょっとしたら、と今になって思うのだ。
岩崎正治を殺したのも、実は巧ではなかったのか、と。
「さあ」
が、巧は途方に暮れたように頭を掻くだけだった。
「それが、よく覚えていないんですよ。どうやら車の中でうとうとしちゃったらしくって、気がつくと、松村家の周りは警官でいっぱいで」
少しの変化も見逃さぬよう、表情を観察したつもりだったが、巧は露ほども不自然な素振りを見せなかった。
「まあ、いいんだけど。巧君が犯人であろうとなかろうと」
芙由子はしみじみと深いため息をついた。
岩崎正治も松村大翔も、純粋な悪意の塊だったのだ。
純粋な悪意は、滅びたほうがいいに決まっている。
それから半年。
元の養護施設に戻された比奈は少しずつショック状態を脱し、ようやく以前の自分を取り戻そうとしていた。
この半年間、ほぼ毎日施設に通った芙由子は、比奈を里親として預かる決意を固めていた。
念願の介護福祉士の資格を取得して新しい職場に変わり、里親としての審査にもパスする見込みが出てきたからである。
その日も芙由子は、待合室で比奈を待っていた。
やがて、女性職員に手を引かれて、比奈が姿を現した。
事件の直後は全身傷だらけで自閉症に陥っていた比奈だったが、今はすっかり落ち着いて持ち前の子どもらしさを取り戻していた。
「お絵描きしたんだよ」
何枚かの画用紙を差し出して、比奈が笑った。
「えー、すごーい、見せて」
芙由子が目を輝かせると、困惑したような表情で、横から女性職員が口をはさんできた。
「それが、へんてこな絵ばっかりなんですよ」
「へんてこな、絵?」
受け取った画用紙に、目を落とす。
クレヨンの原色が、視界に飛びこんできた。
長い竿の先につけた刃物で、若者が男の首の後ろを刺している。
次の絵は、大の字になった裸の女の姿である。
3枚目に描かれているのは、裸の女の上に覆い被さる男の首にロープを巻きつける若者の姿だった。
どうやら殺人を犯しているのは、1枚目に登場する若者と同一人物のようである。
不思議なのは、どちらも背中に白い羽根のようなものが生えていることだ。
「この人、だあれ?」
芙由子は、震える指で羽根の生えた若者を指差した。
「巧にいちゃん」
比奈が真顔で言った。
「巧にいちゃんは、比奈とふゆちゃんの守護天使なんだよ」
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