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#33 希望
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「比奈ちゃんですが、施設にあずけられることになったそうです」
淡々とした口調で、巧が言った。
「簡単に言うと、母親の岩瀬明美が、育児放棄を宣言したってことです。自分ひとりで、子どもふたりはとても育てられない。弟の翔太の面倒はなんとか見るが、職もないのに、比奈ちゃんにまではとても手が回らない。頼れる親兄弟や親戚もいないので、この子は手放す。たずねてきた児童相談所の職員に、そう話したらしいです」
「そ、そんな…」
芙由子は目の前が暗くなるのを感じた。
実の母親にも見捨てられるなんて、いくらなんでも、比奈が不憫すぎる…。
「どうやら、彼女、正治と再婚してから、ずっと比奈ちゃんを敬遠してたみたいで、これが縁を切るいい機会だと思ったんじゃないでしょうか。確かに、無職の女性に、ふたりの子育ては困難に近いと思いますし」
「でも、それは無責任すぎます」
芙由子は無意識のうちに、巧に詰め寄っていた。
「曲がりなりにも、一度は愛した男性との間にできた子なんでしょう? なのに、別の男性と再婚したから愛情が冷めただなんて、そんなの親として、許されないことじゃないですか!」
「僕に怒らないでくださいよ」
巧が身をのけぞらせて苦笑する。
「でも、考えてみれば、そのほうが、比奈ちゃんにとってはよかったのかもしれません。だって、あの母親のもとに居て、今後比奈ちゃんが幸せになれると思いますか? 虐待していたのは、父親の正治だけじゃない。母親の明美も、同じです。母子家庭になって生活が苦しくなれば、それはもっとひどくなるでしょう」
「でも、施設だなんて…」
「施設のいいところは、新しい親が見つかるかもしれないという点です。養子縁組の話でも来れば、明美はおそらく、喜んで比奈ちゃんの親権を手放すのではないかと思います。彼女にとって、比奈ちゃんに固執する必要はまったくないわけですから」
「養子、縁組?」
おずおずと、芙由子はその言葉を口にした。
「そうです。つまり、芙由子さん、あなたが、比奈ちゃんを引き取ることだってできるのです。養子縁組が無理なら、里親になってあげるという手もある」
「里親?」
心が動いた。
特別養子縁組は、既婚者でないと認められないと聞いたことがある。
でも、里親制度なら…?
こんな私でも、なれるだろうか。
真剣に、そう思った。
「そのことを言いたくて、きょうはお邪魔したんです」
巧が、はにかむような笑顔を見せた。
「僕、比奈ちゃんを幸せにしてあげられるのは、芙由子さんだけだと思うから」
淡々とした口調で、巧が言った。
「簡単に言うと、母親の岩瀬明美が、育児放棄を宣言したってことです。自分ひとりで、子どもふたりはとても育てられない。弟の翔太の面倒はなんとか見るが、職もないのに、比奈ちゃんにまではとても手が回らない。頼れる親兄弟や親戚もいないので、この子は手放す。たずねてきた児童相談所の職員に、そう話したらしいです」
「そ、そんな…」
芙由子は目の前が暗くなるのを感じた。
実の母親にも見捨てられるなんて、いくらなんでも、比奈が不憫すぎる…。
「どうやら、彼女、正治と再婚してから、ずっと比奈ちゃんを敬遠してたみたいで、これが縁を切るいい機会だと思ったんじゃないでしょうか。確かに、無職の女性に、ふたりの子育ては困難に近いと思いますし」
「でも、それは無責任すぎます」
芙由子は無意識のうちに、巧に詰め寄っていた。
「曲がりなりにも、一度は愛した男性との間にできた子なんでしょう? なのに、別の男性と再婚したから愛情が冷めただなんて、そんなの親として、許されないことじゃないですか!」
「僕に怒らないでくださいよ」
巧が身をのけぞらせて苦笑する。
「でも、考えてみれば、そのほうが、比奈ちゃんにとってはよかったのかもしれません。だって、あの母親のもとに居て、今後比奈ちゃんが幸せになれると思いますか? 虐待していたのは、父親の正治だけじゃない。母親の明美も、同じです。母子家庭になって生活が苦しくなれば、それはもっとひどくなるでしょう」
「でも、施設だなんて…」
「施設のいいところは、新しい親が見つかるかもしれないという点です。養子縁組の話でも来れば、明美はおそらく、喜んで比奈ちゃんの親権を手放すのではないかと思います。彼女にとって、比奈ちゃんに固執する必要はまったくないわけですから」
「養子、縁組?」
おずおずと、芙由子はその言葉を口にした。
「そうです。つまり、芙由子さん、あなたが、比奈ちゃんを引き取ることだってできるのです。養子縁組が無理なら、里親になってあげるという手もある」
「里親?」
心が動いた。
特別養子縁組は、既婚者でないと認められないと聞いたことがある。
でも、里親制度なら…?
こんな私でも、なれるだろうか。
真剣に、そう思った。
「そのことを言いたくて、きょうはお邪魔したんです」
巧が、はにかむような笑顔を見せた。
「僕、比奈ちゃんを幸せにしてあげられるのは、芙由子さんだけだと思うから」
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