臓物少女

＃39 四天王 その一②

　映っているのは、明も学生の頃何度か出かけた、セントラルパークの噴水広場である。
　そこは都心の地下街の中心で、地下でありながら噴水が水を噴き上げ、それをイルミネーションが照らしているという、若者たちに人気の待ち合わせスポットだ。
　今も噴水を遠巻きにしているのは着飾った若い女性たちや流行のファッションに身を包んだ若い男たちである。
　そしてその怯えた視線の集まるど真ん中に、そいつは居た。
　それは、一見すると、巨大な桃だった。
　ふたつの薄いピンク色の巨大な球体がふたつ、深い割れ目を中央に走らせてくっついている。
　その桃を頭部として全体スーツを身に纏った貧弱な身体が下に続き、そこからもやしのように細い手足が生えている。
「こ、これは･･･お尻？」
　笹原刑事が茫然とつぶやいた。
「ですね･･･」
　明もうなずくしかない。
　地下街の中心に陣取って通行人たちに恐怖を与えているそれは、明らかに人体の中の臀部をモチーフにした培養人間に違いなかった。
「ガハハハハッ！　わしは人肉厨房四天王のひとり、尻ノイドじゃ！」
　その時、中継画面から怪人のだみ声が聴こえてきて、ふたりの推測は図らずも証明された。
　ただし、よくわからないのが、修飾語の四天王のくだりである。
「でも、ケツ人間なんてキモいだけで別に怖くもなんともないですよね」
　笑いがこみ上げてきて、明は鼻を鳴らした。
「わかんないですよ。ひょっとして、なにか凄い必殺技持ってるかもしれないし」
「ケツ人間の必殺技ですか？　どうせそんなのろくなもんじゃないに決まってますよ」
　明が言い切った、その刹那だった。
　まるで中継画面の向こうまでその声が届いたかのように、尻ノイドが動いた。
　両手で頭代わりの巨大なお尻を左右に割ったのである。
　谷間が拡がり、露わになったのは、口ならぬ肛門だった。
　その肛門の周辺の括約筋を唇みたいに動かしながら、尻ノイドが言ったのだ。
「ガハハハハッ！　きさまら人間どもに、わしの必殺技を見せてやる！」