臓物少女

戸影絵麻

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#20 第二の刺客⑤

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 ここで紗英が髪ノイドの触手責めを受けて快楽に目覚め、悶え始めれば、まんまSM小説である。
 ところが、たかが三匹目の敵でそれはさすがに早すぎる、ということなのかー。
 次の瞬間、事態は急展開した。
 紗英が右手の戒めを解き、ガクンと身体を傾けたのである!
 右手に握られているのは、あのナイフ。
 捕縛される寸前、彼女が隣のテーブルから拾い上げたものだった。
 紗英は指で挟んだナイフを器用に操って、手首を緊縛していた髪の束を断ち切ったのだ。
 とっさに身をひねり、紗英が左手首を縛った髪の毛をも切り離す。
 そうして更に両の乳房を搾り上げる二本の髪の触手をぶった切ると、錐揉み状態で落下した。
 落ちながら左足首、右足首と戒めを断ち切って、自由落下に入る寸前、背後にかかった垂れ幕に身を投じた。
 天井近くから二階のフロアまで届く、『ゴールデンウィーク大特価!』の長方形の巨大な幕である。
 垂れ幕に包まれ、蛹みたいな恰好になった紗英が、ミサイルのごとく宙を飛んだ。
「な、なにいっ?」
 驚愕の声を発したのは、目標とされた髪ノイドである。
 髪ノイドの頭上に来たところで、
 バサッ!
 紗英がムササビの皮膜のように、身体を包んだ垂れ幕を開いた。
 明の位置からは、翼のように開いた垂れ幕に遮られて、肝心の紗英の姿は見えない。
 だから、その瞬間、何が起こったのか、さっぱりわからなかった。
 紗英が垂れ幕で包み込むようにして髪ノイドに突っ込むとー。
 そのとたん、すさまじい悲鳴が上がった。
 悲鳴はテントみたいに膨らんだ垂れ幕の中から聞えてくる。
 雑魚戦闘員たちが血相を変え、髪ノイドの許へ駆けつけたがー。
 なぜか到着する前に、首筋から血しぶきを上げて次から次へと転倒する。
 やがて垂れ幕の帳が床に落ち、すっくと紗英が立ちあがった。
 その足元に滞積するのは、半ば溶け崩れて、肉汁の間から鳥籠みたいなあばら骨を露出した髪ノイドの残骸だ。
 静まり返るフードコートの中、モーゼの十戒のワンシーンよろしく、客の列がふたつに割れた。
 その中央を歩いて明の前までやって来ると、
「また汚れちゃったよ、ったく」
 肉汁まみれのタンクトップとスカートを忌々しげに見やって、紗英が言った。
「もう一回新しいの買ったら、次行くよ。次」
 
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