臓物少女

＃6 第一の刺客②

「イーヒッヒッヒ！」
　狂気じみた笑い声とともに姿を現したのは、なんとも面妖な生き物だった。
　身体は単に、全体タイツに身を包んだやさ男である。
　ところが、首から上が違っていた。
　まるで首の切断面から巨大なヤツデの葉を生やしたように、五本の指が扇形に広がっているのだ。
　その指の一本である長大な人差し指が、背後から大神佐平の腹部を刺し貫いているのだった。
　ずぼっ。
　嫌な音を立てて、化け物が佐平の傷口から人差し指を抜いた。
　ネイルで飾り立てた大きく鋭い爪には、べったりと血糊が貼りついている。
「説明的な長台詞もたいがいにしなさいよォ、見苦しいわねえ」
　どこから声が出るのか、いきなりオネエ言葉で化け物がしゃべったので、明は危うく尿漏れしそうになった。
「き、きさまは･･･指ノイド」
　鮮血が溢れる腹部を右手で押さえ、怪人のほうに首をねじって佐平が言った。
「親父･･･」
　さすがに顏から血の気が引いていく。
　さっきから、わけのわからない出来事ばっかりだ。
　でも、確かなのは、このままでは目の前でひとりの男が息絶える、というそのことだ。
「きゅ、救急車･･･」
　うわ言のようにつぶやいて、ジーンズの尻ポケットからスマホを抜き取った、その時だった。
「私に任せて」
　若い女の声がした。
「へ？」
　いつのまにか、傍らにあの美少女が立っていた。
　花びらの模様みたいに血の染みを飛び散らせた白いブラウスに、膝上25センチは超えていそうなマイクロミニ。
「一般人は下がってて。ここは私が行く」
　明を見据える黒目がちな大きな瞳はいかにも意志が強そうだ。
「き、きみは、い、いったい？」
　明の問いをガン無視して、少女が前に歩み出た。
「紗英･･･」
　見上げた博士を跨ぎ越し、外へ出る。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョッ！　やっとやっと本家バイオノイドのおでましね。お待ちしてましたわよ！」
　手のひらの化け物が、少女をひと目見るなり心底うれしそうに叫んだ。
「目玉ノイドの仇、この指ノイドさまがとらせていただくわ！」