臓物少女

戸影絵麻

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プロローグ

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 崖際の道を一台の軽自動車が疾走している。
 運転手は白衣を纏った初老の男性で、助手席には意識を失ったひとりの少女。
 年の頃は15、6歳くらいだろうか。
 色白の、睫毛の長い、美しい少女である。
 その軽自動車を、数台のオートバイが追っている。
 先頭の二台には、顔まで覆う黒いボディスーツを身に着けた男たち。
 その後方を走る大型バイクを駆るのは、見るもおぞましい化け物だった。
 頭の代わりに首の上に座っているのは、まん丸の巨大な眼球だ。
 その眼球からひょろりとした手足と胴体が生えたようなその姿は、とても現実のものとは思えない。
 崖道が上りに差し掛かると、見る間に軽自動車の速度が落ち始めた。
 もとよりエンジンがオフロード向きにできていないのだから、これはある程度予測されてしかるべき事態である。
「くそ、ここまでか」
 怪人たちの上げる勝鬨の声を耳にしながら、運転席の男、大神佐平は歯噛みをした。
 車のほうも限界だが、彼自身の肉体も、同様だった。
 肺から始まり、全身に転移したガン細胞。
 我ながら、よくここまで逃げてこられたものだと思う。 
「できるだけ、彼女の力にに頼りたくはなかったが・・・ええい! この際、仕方がない」
 折りしも、道はすれ違い用の安全地帯に差し掛かるところだった。
 その部分だけ、三日月のような形に谷側に道が膨らみ、車を止められるようになっている。
 そこへ軽自動車を停車すると、大神佐平は少女を外に担ぎ出した。
 少女は半袖の白いブラウスにえんじ色のネクタイ、かなり短いミニ丈のプリーツスカートといったいで立ちだ。
 不思議なのは、今にも下着が見えそうなスカートの尻のあたりから、細い尻尾が生えていることだった。
 色は黒く、漫画に出てくる悪魔のトレードマークのように、先っちょが尖った矢尻の形をしている。
「すまぬ。サエ」
 ぐったりした少女を地面に下ろすと、大神佐平はその傍らにひざまずき、祈るようにこうべを垂れた。
 やがて、カーブの向こうから聴こえる怪人たちの歓声が大きくなり、バイクに乗った例の目玉の化け物が現れた。
「イヒヒヒヒ、大神博士、そろそろ年貢の納め時だな」
 手下たちとともにバイクを下りた目玉怪人が、気味の悪い声で高笑いした。
「グフフフフ、裏切り者には死あるのみ、だ。さあ、その試作品は返してもらおうか。その後、ゆっくり殺してやろう」
「ふむ。しかし、そう、うまくいくかな」
 大神佐平の右手が少女の尻尾に伸びた。
「目玉ノイドよ。この天津紗英は、試作品といえども、究極の最新型なのだ。きさまごときにー」
 佐平の言葉が、終わるか終わらぬかのうちだった。
 肉が裂けるような異音が轟いたかと思うとー。
「なにい? き、きさまあ・・・」
 突如として現れた”それ”をひと目見るなり・・・。
 目玉ノイドと呼ばれた化け物が、素っ頓狂な声を上げてのけぞった。
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