気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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♯182 これが本当の”ミステリというなかれ” ~落下の解剖学~

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 カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した”ミステリ”。


【あらすじ】
 ベストセラー作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)は、夫と視覚障害のある11歳の息子ダニエル、愛犬のスヌーブと雪山の山荘で暮らしている。
 ある日、夫が三階の屋根裏部屋の窓から落下して死亡、発見者は息子のダニエルだった。
当時山荘には夫とサンドラしかおらず、彼女は夫殺害の容疑で法廷に立たされることになる。
 検証の結果、夫の墜落死は事故ではなく、他殺か自殺のどちらかの可能性に絞られる。
 やがて前日の夜の壮絶な夫婦喧嘩の様子を録音した夫のUSBメモリが発見され、サンドラのバイセクシャルで多情な性癖、ダニエルが視力を失うに至った七年前の事故の真相などが明るみに出され、サンドラは窮地に陥るが、審理終了の直前に息子のダニエルが「思い出したことがある」と再度証言台に立つ…。

 ”極上のミステリ”、”緻密な脚本”などというレビューのタイトルに惹かれて見てみたものの、
 狭義の謎解きミステリでは全くなかった、というのが一番の印象。
 そもそも状況からしてサンドラが犯人の他殺なのか夫自身の意志による自殺なのかの二択しかないので、推理しようにもあまり盛り上がらない。
 夫は実は前日の夫婦喧嘩の直後に殺されていて、当日の状況は物理的トリックによるものだった。
 実際はサンドラと息子のダニエルの共犯で、凶器が見つからないのはダニエルが散歩と言いつつ捨てたからだった。

 などという国産ミステリによくある疑惑は法廷では一顧だにされないし、
 山荘自体が機械仕掛けで動くみたいな島田荘司ばりのとんでもトリックもない。
 結末も実にあっけないもので、ここに来て凡百のミステリファンはそもそもの”見方”みたいなものが間違っていたことに否が応でも気づかされるという次第。

 ではこの映画、何が言いたかったのだろうかと考えてみると、それがよくわからない。
「真実は重要ではない。要は人がそれをどう見るかだ」
 劇中で弁護士がそんなようなことを言っていたけど、だからといってそれほどメタ認知にこだわった複雑なストーリーでもないし、主人公のサンドラは性格や性癖からして感情移入しやすいキャラクターでもないし…。

 要は、他のカンヌ映画祭パルムドール賞受賞作品同様に、なんかモヤモヤする映画だったということです。

 
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