気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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♯174 『シン・ゴジラ』を超えた? ~ゴジラ マイナスワン~

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【あらすじ】

 1945年、太平洋戦争末期ー。
 特攻隊の一員として飛び立った敷島浩一(神木隆之介)。
 だが、特攻する決心がつかず大戸島にある修理用飛行場に着陸する。と、その夜、島に恐竜のような生物、ゴジラが出現。
 恐怖に駆られた敷島は戦闘機の機銃でゴジラを攻撃することができず、その結果、整備士たちがほぼ全員ゴジラに殺されてしまう。
 終戦後、敷島が帰郷すると、東京はすでに焼け野原で両親も死んでいた。
 近所に住む太田澄子(安藤サクラ)は、おめおめ生き残って帰ってきた敷島に子供たちを失った怒りをぶつける。
 そんなある日、絶望と後悔の念にとらわれた敷島の家に、身寄りのない典子(浜辺美波)と赤ん坊が転げ込む。
 ふたりのためにもと、海中機雷撤去の仕事を始める敷島。
 仕事のメンバーは元軍人で船長の秋津(佐々木蔵之介)、手伝いの水島(山田裕貴)、学者の野田(吉岡秀隆)の三人。
 木造りの船に乗り、機雷を見つけては爆発させる作業を続ける4人の前に、アメリカの水爆実験の影響で巨大化したゴジラが現れる。東京に侵攻し、破壊の限りを尽くすゴジラ。ゴジラのせいで典子を失った敷島は、野田や秋津たちとともに民間のゴジラ駆除組織の一員となり、”自分の中の戦争”を終わらせる決意を固めるのだがー。

【感想】
 あらすじでもお分かりかと思いますが、まず、怪獣映画にしては人間ドラマのパートが異様にしっかりしています。神木隆之介、浜辺美波、吉岡秀隆といった芸達者の演技が素晴らしく、まるでNHKのスペシャルドラマでも見ているみたい。ここがまずハリウッドのモンスターバースとの大きな違いでしょう。また、終始国家政治家官僚側の視点で描かれ、登場人物への感情移入を拒否するかのようだった『シン・ゴジラ』との差別化でもあります。だからかもしれませんが、見終わった後の感想は、「これって本当にゴジラ映画なのか?」というものでした。
以前、このコラムで「怪獣映画に人間ドラマはいらん!」と豪語した筆者ですが、「いや、これはアリだな」と感心しました。時代設定とぴったり合ってるし、平成ゴジラシリーズのように「とりあえず人間の側の話もつけときました」的いい加減さはない。

 そうかといって、肝心のゴジラの描き方がいい加減というわけでは決してありません。
 大迫力のままここまで動くゴジラもすごいし、何よりも熱戦放射の描写のすさまじさ。
 カウントダウンのように光る背びれが立ち上がり、
 発射後きのこ雲が立ち上るほどの自身の熱戦の威力に、ゴジラ自身が焼けただれてしまう。
 攻撃を受けると傷を負いはするものの、その場ですぐに再生する生物感もよい感じでした。
 その謎の巨大生物に立ち向かうのが、終戦当時の日本に残っていた兵器だけというのもいいですよね。
 ラスト近くの船の結集シーンは『シン・ゴジラ』の電車爆弾へのオマージュでしょうか。

『ドラクエ』で世間を幻滅の底に突き落とした山崎監督でしたが、『三丁目の夕日』『永遠の0』の頃の勢いを取り戻した感のある傑作でした。
 BGMも伊福部昭のアレだったし、個人的にはもう、文句のつけようがない。
 考えてみれば、泣けるゴジラ映画って、初めてのような気がします。
 ゴジラに論理で迫っていった『シン・ゴジラ』とはまた別の意味で、怪獣映画のひとつの金字塔が生まれたのではないかと思います。

 ちなみにゴジラ自体の造形は、かなりゴツくなっていますが、体はミレニアムゴジ、顔はビオゴジって印象です。
 
 
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