気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#141 ”長澤まさみのスカートの中”に怒っている君へ ~死刑にいたる病~

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 原作未読。

 でも、早川文庫から出ているからには、きっと小説のほうも、かなり凝った仕掛けの一品なのでしょう。

 よく似たタイトルの、我孫子武丸『殺戮にいたる病』も傑作だったし。

(もしかして、このタイトル、キェルケゴールの『死に至る病』のほうから来ているのかもしれませんが)

 さて、あらすじはこんなふう。(公式オフィシャルサイトより引用)

 ある大学生・雅也のもとに届いた一通の手紙。
 それは世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼・榛村からだった。
「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」。
 過去に地元のパン屋で店主をしていた頃には信頼を寄せていた榛村の願いを聞き入れ、事件を独自に調べ始めた雅也。しかし、そこには想像を超える残酷な事件の真相があった―。

 のっけから始まる阿部サダヲ演じる榛村の拷問シーンが凄まじい。
 好みの高校生(男女問わず)を手なずけては、自宅に連れ帰り、離れの小屋でじっくりいたぶって殺す榛村なのですが、爪はがしから始まって、あれやこれや血まみれの儀式が極めてリアルに展開されます。

 前回ちょっと書いたように、『シン・ウルトラマン』で長澤まさみが巨大化してビル街を闊歩するシーンに対してSNS上で「ひどいセクハラ。いつの時代の感覚なんだよ。神経がわからん。今は令和だぞ」と噛みついていた人たちがけっこういた模様ですが、

 ならばこの『死刑にいたる病』の拷問シーンはどうなんだ。

 と聞きたい。

 朝ドラの『ちむどんどん』の入浴シーンに目くじらを立てるあなた、リアルな拷問シーンはいいんですか?

 と聞いてみたいんですが、いかがです?

 正直、それどころじゃない、と思うんですけどね。

 まあ、それはそれとして。

 映画はけっこうヒットしていて(今回も、劇場の席はほとんど埋まっていました)、阿部サダヲの怪演が話題になっているようです。
 確かに二転三転する展開といい、全編を覆う重苦しさといい、サイコサスペンスとしては良い出来です。
『羊たちの沈黙』などが好きな人には、間違いなくおすすめでしょう。
 ラスト近くで冒頭シーンの意味がわかるのですが、これなんかもなかなか衝撃的で秀逸。

 ただ、個人的には、

 テレビドラマ『アンナチュラル』の最終エピソードに似てるな、という印象でした。むしろ、犯人の幼少期のトラウマがはっきり描かれていた分、『アンナチュラル』のほうが、説得力があったかと。
 
 ともあれ、この手の話は、やっぱり石原さとみやジョデイ・フォスターなど、ダークサイドに対抗できる善的側面をしっかり有したキャラクターが出てきて事件をすっきり解決してくれないと、

 ーすべてが気まずいままで終わってしまうー

 まさにそれを痛感させられた一本でした。
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