気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#138 多国籍+手話+犬=受賞? ~ドライブ・マイ・カー~②

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 さて、感想の続きを。

 いかにも賞取リレース向きだな、と思ったのは、演劇の練習場面です。

 そもそもこの演劇の設定が、複数の国の役者がそれぞれ自国の言葉で演技をする”多言語劇”なる一風変わったもので、相手の台詞の意味がわからないまま、与えられた役を演じなければなりません。

 役者はフィリピン人、韓国人、日本人、そして手話で会話をする聴覚障害者もいるというまさに多文化共生状態。

 でも、そのあからさまに受賞を狙ったかのような設定があざとく感じられるかというとそうではなく、感情を入れない台本読み→芝居稽古と進むにつれ、逆にだんだん癒しに繋がっていくのが不思議です。

ここで特筆すべきは、韓国人女優イ・ユナ(パク・ユリム)。韓国の手話を使う彼女の可憐な演技はまさに一服の清涼剤とでもいうべきもの。(のちに彼女は運営側のコン・ユンスの妻であることがわかるのですが)

 思うに、この作品を数々の賞に導いたのは、手話をも含めたこの多言語劇という、いかにも今の世の中に歓迎されそうなSDGs的モチーフをうまく使いこなせたところにあるのではないでしょうか。

 むろん、そうした要素を抜きにしても、監督の演出は見事で、登場人物のさりげない視線の動きが示す意味、押しつけがましくない効果的な音楽の挿入など、映画自体、見る者を心地よくさせるすべを十分に心得た作りだったと思います。

 その証拠に、この映画は、みさきが韓国のショッピングモールで買い物をする場面で終わります。

 彼女の乗っている車は、家福が所有していたあの赤い外車。後部座席にはユンスの家に居た大きな犬。

 あの一連の出来事の後、彼女の人生がどう変わったのかは一切語られませんが、これを見るだけで、良い方向へ変化したんだろうなと温かい気持ちになります。

 作品の裏の柱ともいうべきチェーホフの戯曲『ワーニャ叔父さん』のどこがよいのか、不勉強な私にはよくわからなかったのですが、それでも、3時間以上の長尺ながら、見て損のない、いい映画だったのではないかと思います。
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