気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#105 至高のヒーロー映画 ~スーパー!~

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 ヒーローものは数あれど、私のイチオシはこの「SUPER(スーパー!)」です。
 2011年公開のジェームズ・ガン監督の二作目。
 系列としては『ディフェンドー』や『キックアス』に近いアンチヒーロー映画ですが、主人公のダメさ加減、描写のグロさ、暴力度では群を抜いています。それだけに見終わった後の何とも言えない余韻の深さは格別で、どこか宗教的な法悦感すら覚えるほどです。
 まずあらすじはこんなふう。

 ファミレスの厨房で働くフランクは、小太りで不細工な中年男で、敬虔なクリスチャン(?)。
 そんな彼の人生の「完璧な瞬間」は、美人妻のサラと結婚したことと、泥棒を追う警官に犯人の逃げた方向を教えたことのただふたつ。彼はそのシーンを絵に描いて壁に貼っています。
 ところが、夜の誘いも断られ、「最近サラが遠くなった」と落ち込んでいたある日、かつてから麻薬中毒の気があり、療養中だった妻のサラがドラッグディーラー、ジョッグの元に逃げてしまいます。
 さらに落ち込むフランクですが、ある晩、お気に入りの番組「ホーリーアベンジャー」に登場するヒーローを家の窓から見かけたことがきっかけで、”神”に頭蓋骨を切開され、脳味噌を指で触られるという啓示を受けます。驚く彼に「ホーリーアベンジャー」は、「君は選ばれたのだ」と告げるのでした。
 神の啓示を鵜呑みにしたフランクは、手製のユニフォームを着こみ、レンチを武器に、悪人退治に乗り出します。初めのうち、フランクのターゲットは、麻薬密売人、児童虐待者、窃盗犯、行列に割り込むやつなど、彼が悪人と判断した相手だけだったのですが、そこに彼の正体を見破ったコミック店員、頭のねじがぶっ飛んだイカレ少女リビーが相棒のボルティーとして加わり、ふたりの暴力はますますエスカレート。
 クライマックスではサラを救出するためにジョックの屋敷に乗り込むものの手ひどい返り討ちに遭い、相棒のリビーを目の前で惨殺されてしまいます。怒り狂ったフランクは満身創痍になりながら、ついにサラを取り返し、ジョックを追い詰めるのですが・・・。

 映画館の行列に割り込んだカップルをレンチで殴り倒したりする主人公フランクの行為は、客観的に見ればただの暴力にすぎないでしょう。クライマックスで、「おまえも俺と同じだなんだ!」とジョックに罵倒されるフランクですが、ただ、彼の凄いのは、それが事実だと認識しながらも全くぶれないところ。「それでも麻薬売買は悪だ! 児童虐待は悪だ! 割り込みは悪だ! 盗みは悪だ! 平穏に暮らしている他人に迷惑をかけるんじゃない!」と叫んでジョッグを撲殺してしまいます。フランクのことをキ〇ガイだとか無茶苦茶だとか非難することは簡単なのですが、心の中では、「そりゃそうだよな。ほんと言うとさ、君は正しいよ」とつい思ってしまう自分がいることを誰も否定できないのではないでしょうか。

 結局、サラはフランクの許で二か月だけ平穏に暮らし、また家を出ていってしまいます。そして、フランクは気づくのです。「神に選ばれし者」は自分ではなく、サラだったのだ、と。だから神はフランクに彼女を救わせたのだと。
 サラはその後人類学を学び、麻薬中毒患者たちのセラピストとして活躍するようになり、再婚して4人の子供をもうけます。子供たちからハガキをもらったフランクおじさんは思います。「自分とリビーが戦ったからこそ、4人はこの世に存在できるのだ」と。そしてフランクは、壁一面に増えた「完璧な瞬間」の絵を眺めながら、一度は「僕と一緒じゃ可哀想だ」と断念したものの、最近飼い始めたウサギをしみじみと抱きしめるのでした・・・。

 この『スーパー!』は、軽快でノリのいいロックの数々、グロいけどポップなオープニングアニメ、飛び散る血しぶきと肉片、それでいてどこかさわやかでワビサビのある、そんなジャンル不問のおススメムービーです。
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