気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
81 / 211

#79 思いがけない拾いもの ~見えない目撃者~

しおりを挟む
 主人公が盲目という設定を聞いただけで、よくあるネタだなあと思われるかもしれません。

 実は私もそうでした。

 ところが。

 期待していなかった分、いい意味で予想を裏切ってくれました。

 この『見えない目撃者』は、吉岡里帆主演のサスペンス映画です。

 もとは韓国映画らしいです。


 あらすじはこんなふう。


警察学校を優秀な成績で卒業し、警察官として希望に満ちた人生を踏み出した浜中なつめ(吉岡里帆)は、自分の起こした交通事故で弟を死なせ、自らも視力を失ってしまう。失意のどん底に落ち、警官も辞職して母親と暮らすなつめは、3年後のある夜、車の接触事故に遭遇し、相手の車の中から助けを求める少女の声を聴く。誘拐事件ではないかと直感したなつめは警察に申し出るものの、彼女の訴えはまるで聞き入れてもらえない。これは事件だと確信するなつめは、事故直前に聴いた音と会話から、現場にいたと思われる少年、国崎春馬(高杉真宙)を独力で探し出す。最初は非協力的だった春馬だが、なつめの真剣さに徐々に感化され、やがてふたりで捜査を進めることになり、その懸命な努力によって、世間から隠されていた女子高生連続猟奇誘拐殺人事件を暴き出す…。

 とまあ、ストーリー自体には、大して目新しさはないし、ミステリとしてはつっこみどころはいくつかあるし、犯人もある(邪道な)理由から、分かる人にはすぐにわかってしまうのですが、なかなかどうして、最後まで緊張感が途切れることなく、けっこうハラハラしながら画面に見入ってしまいます。

 理由はまず、主演の吉岡里帆の熱演が光っていること。あまりにくだらない理由で事故を起こして弟を亡くした彼女は、その償いでもするかのように絶望的なまでにほとんど笑わず、盲導犬のパルとともに前のめりに事件にのめり込んでいきます。かつて優秀な新人警官だったという設定は伊達ではなく、ラストの真犯人との対決は、盲目でありながら、まるで『必殺シリーズ』の名シーンを見るようです。
 共演の高杉真宙も、スケボーにしか興味を持たない投げやりな少年から、なつめの片腕として活躍する頼れる相棒に成長するまでの過程を、無理なく好演しています。そしてもうひとり、警察内で唯一なつめの理解者となる、定年を1年後に控えた初老の刑事を田口トモロヲが見事に演じ切っている。

 サスペンスを撮るならこうだろう、というお手本みたいな奇をてらわない正統派の演出と、よい役者さんたちが相乗効果を醸し出している、いい映画だと思います。


『追記』

 テレビドラマではむごい殺され方をされていた”彼”が、そのうっぷんを晴らすかのように猟奇殺人鬼としてのびのび振る舞う姿には、ちょっと笑いました。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...