気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#79 思いがけない拾いもの ~見えない目撃者~

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 主人公が盲目という設定を聞いただけで、よくあるネタだなあと思われるかもしれません。

 実は私もそうでした。

 ところが。

 期待していなかった分、いい意味で予想を裏切ってくれました。

 この『見えない目撃者』は、吉岡里帆主演のサスペンス映画です。

 もとは韓国映画らしいです。


 あらすじはこんなふう。


警察学校を優秀な成績で卒業し、警察官として希望に満ちた人生を踏み出した浜中なつめ(吉岡里帆)は、自分の起こした交通事故で弟を死なせ、自らも視力を失ってしまう。失意のどん底に落ち、警官も辞職して母親と暮らすなつめは、3年後のある夜、車の接触事故に遭遇し、相手の車の中から助けを求める少女の声を聴く。誘拐事件ではないかと直感したなつめは警察に申し出るものの、彼女の訴えはまるで聞き入れてもらえない。これは事件だと確信するなつめは、事故直前に聴いた音と会話から、現場にいたと思われる少年、国崎春馬(高杉真宙)を独力で探し出す。最初は非協力的だった春馬だが、なつめの真剣さに徐々に感化され、やがてふたりで捜査を進めることになり、その懸命な努力によって、世間から隠されていた女子高生連続猟奇誘拐殺人事件を暴き出す…。

 とまあ、ストーリー自体には、大して目新しさはないし、ミステリとしてはつっこみどころはいくつかあるし、犯人もある(邪道な)理由から、分かる人にはすぐにわかってしまうのですが、なかなかどうして、最後まで緊張感が途切れることなく、けっこうハラハラしながら画面に見入ってしまいます。

 理由はまず、主演の吉岡里帆の熱演が光っていること。あまりにくだらない理由で事故を起こして弟を亡くした彼女は、その償いでもするかのように絶望的なまでにほとんど笑わず、盲導犬のパルとともに前のめりに事件にのめり込んでいきます。かつて優秀な新人警官だったという設定は伊達ではなく、ラストの真犯人との対決は、盲目でありながら、まるで『必殺シリーズ』の名シーンを見るようです。
 共演の高杉真宙も、スケボーにしか興味を持たない投げやりな少年から、なつめの片腕として活躍する頼れる相棒に成長するまでの過程を、無理なく好演しています。そしてもうひとり、警察内で唯一なつめの理解者となる、定年を1年後に控えた初老の刑事を田口トモロヲが見事に演じ切っている。

 サスペンスを撮るならこうだろう、というお手本みたいな奇をてらわない正統派の演出と、よい役者さんたちが相乗効果を醸し出している、いい映画だと思います。


『追記』

 テレビドラマではむごい殺され方をされていた”彼”が、そのうっぷんを晴らすかのように猟奇殺人鬼としてのびのび振る舞う姿には、ちょっと笑いました。
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