気まぐれシネマレビュー

#58 ただひたすら美しい。でも･･･。 ～海獣の子供～

　数々の賞を取った五十嵐大介の代表作『海獣の子供』のアニメ化。原作既読。

　中学生の安海琉花は、夏休みの初日、部活でトラブルを起こし、出禁処分を受け、意気消沈。
　その足で向かった別居中の父が勤める水族館で、ジュゴンに育てられたという兄弟、海と空に出会う。
　海と空の周囲で起こる海にまつわる不思議な事件、渦巻く大人たちの思惑。やがて隕石の落下をきっかけに、琉花は”誕生祭”なる宇宙規模の謎に巻き込まれていく･･･。

　とにかく、絵が美しい。原作の精緻なタッチがそのままカラーになり、滑らかに動くそのさまは感動的。ひなびた海辺の町、真っ赤な花、おびただしい海の中の生物、クジラ･･･どれをとってみても、まるで美術館にいるみたい。

　ただ、それと映画として面白いかどうかはやはり別の話であって、特にストーリーがどんどん抽象的になっていく後半は、絵に慣れたせいもあってか、猛烈に眠気を誘う。狂言回しのデデの説明的台詞は浮いてるし、そもそも誕生祭とは何であったのか、これが原作同様わからないまま。デデの言う通り、隕石が精子で海が子宮なら、誕生祭という名の通り、何か生まれてきてもよさそうなものなんだけど…。おまけ映像にあった琉花の母が赤ん坊を抱くシーン、まさかあれ？　あの赤ちゃんが超人類だったとか、そういうことか？

　原作の漫画は所々に世界中で起こった『海の怪異』のエピソードが挟まれていたり、空が死ぬところなどかなりグロかったりするのですが、そうしたコワイ描写は映画ではほぼカット。水族館で頻発する魚が光って消える事件のエピソードも削除されているため、全体を通してサスペンス度はかなり薄められています。眠かったのはそのせいもあるかなあ。

　欲を言えば、映画独自の解釈でもいいので、ラストの誕生祭の意味をもう少しわかりやすくしてほしかったです。あと、せっかく米津元帥が主題歌を担当するなら、エンドクレジットだけでなく、劇中でも流してほしかった。『海の幽霊』、『Lemon』に劣らず、名曲だと思います。

　この前観た『KOM』に比べ、子ども連れのお客さんが多かったんだけど、これ、子どもが見て面白いのだろうか。なんで君たちは怪獣映画じゃなくって、こっちを選んだわけ？　そう訊いてみたかったです。