気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#52 監督としての水谷豊って? ~轢き逃げ 最高で最悪の日~

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 娘をひき殺された父親が主人公ということで、縁起悪そうだな、きっと後味よくないだろうなあ、と迷っていましたが、上映する劇場も少ないし、今見ておかないと一生観られないかもと思い、がんばって鑑賞。

 『相棒』の水谷豊が監督としてメガホンを取った第2作、『轢き逃げ』はこんな話です。

 大手建設会社の若手社員修一は、親友の輝の遅刻のせいで婚約者との結婚式の打ち合わせに遅れそうになり、渋滞を回避するべくとった近道で、若い女性、時谷望をはねてしまう。
 こんなことで人生を台無しにされてはたまらないと、目撃者がいないのをいいことに、死体を放置して逃げ出すふたりだったが、その後、自宅に脅迫状めいた手紙が届いたり、結婚式に犯行を目撃したことをほのめかす差出人不明の祝電が届いたりと不吉な出来事が続き、徐々に精神に変調を来たしていく。
 かたや、娘を失くした父親(水谷豊)は、死亡時に娘が携帯を持っていなかったことに不信を抱き、独自に事件を調べ始める・・・。

 この映画の見どころは、なんといっても、一見「轢き逃げを題材にした、加害者と被害者遺族の人間ドラマ」と見せかけておいて、実はどんでん返しを仕込んだミステリであること。

 ミステリとしての突っ込みどころはたくさんあるのですが、その心意気やよし、といった感じでしょうか。

 正直、監督の感覚が古いのか、序盤の青春ドラマは見るに耐えません。

 独身最後の日を祝うために、男二人で遊園地に行ったり海に行ったりー。

 今どきそんなやついるのか気持ち悪い、そう思わずにはいられないのですが、実のところこれも伏線の一部なので我慢して見なければなりません。

 話が面白くなるのは、被害者の父である水谷豊、その妻の檀ふみ、事件を追う刑事、岸部一徳あたりが登場してから。

 さすが芸達者のおじさんおばさんたち。

 こういう役者さんがいないと、いかに映画がつまらないかがよくわかります。

 ともあれ、ミステリとしての出来はともかく、最後にあぶりだされる犯人像は、お決まりのサイコパスに今風のアレンジが加えられていて、けっこう派手に壊れています。

 水谷豊の監督としての手腕は、前半が少し学芸会っぽかったり、明らかに不要なシーンがあったりと、所々まだ素人臭が抜けていない感じがします。ただ、本人が書いた脚本はなかなか面白く、さすがに長年『相棒』をやってるだけのことはあるかと思います。

 個人的には、岸部一徳の刑事がとてもよかったのと、ラストで修一の婚約者との会話の直後に見せる、檀ふみのなんともいえない不思議な表情が印象に残りました。

 それまで口にしていた感動的な台詞をすべて台無しにするようなあの表情は、水谷豊カントクの演出なのか、あるいは檀ふみ本人の、「変な映画に出ちゃったなあ」という後悔だったのか…。



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