気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#48 そこをカットしていいんかい? ~IT ”それ”が見えたら終わり~

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 スティーブン・キングの大作の映画化。原作はハードカバー2冊分。上下2段組で各600ページ以上あろうかという大長編です。
 以前、テレビのミニシリーズとして製作されたことがあるだけで、本格的な映画化はこれが初めて。アメリカではホラー映画史上№1の大ヒット作となり、日本でもかなりヒットした模様。

 あらすじはこんなふう。
 1988年のデリーの街。子供lだけが連続して失踪する事件が起こる中、ある大雨の日、主人公のビリーの弟のジョージも姿を消してしまう。
 失踪事件の背後に他人の恐怖心を操る謎のピエロが存在することを突き止めたビリーは、弟を救うべく、仲間たちとともに”それ”の潜む下水道へと乗り込んでいく…。

 結論から言うと、「なぜそんなにヒットしたのかわからない」の一言に尽きる。
 すでに色々評価が下されているので、個人的に不満だった点を絞ると、

 後半、主人公たちが”それ”と戦う場面、ここがあまりに残念すぎること。
 前に、他の作品のレビューでも書いたけど、せっかく作者が考えた作中のロジックを無視しないでほしいのです。

 原作では、子どもたちはちゃんと”それ”対策に頭を絞って色々準備をし、結果的にその撃退方法が功を奏するのに、そこが映画ではただの力でのごり押しで終わりというのはいかがなものか。だいたい、たとえ相手が複数だとはいえ、12歳くらいの子どもに殴ったり蹴られたりしただけで退散するラスボスが、どこの世界にいるというのですか?
 しかも、これはテレビ版でもカットされたシーンですが、原作では、ピエロの呪いを解くために、メンバーの中の紅一点、ベバリーがある儀式を行います。信頼の絆を強めるために、下水道の中で仲間たち全員とセックスするという荒技に出るのです。私個人としては、”女神”が勇者たちに力を分け与える方法としては、これ以上のものはないのではないかと思うのですが、女性読者から大ブーイングが沸き起こったといういわくつきのエピソードです。まあ、窮屈な今の時代、製作者側としては仕方のないことなのかもしれないけれど、でも、ここをカットしてしまうと、子どもたちがなぜ”それ”に勝てたのか、ますますわからなくなる。

 ちなみに、この話、子ども編と大人編に分かれていて、27年後、再び街に”それ”が現れたのを機に、大人になったメンバーたちが再集結して最終決戦に挑みます。しかし、テレビ版はラストシーンがなんともお粗末で、正体を現した”それ”をおじさんおばさんになった主人公たちがが平手でペチペチ叩くだけで退治するという、およそありえない展開でした。映画版の続編が、そんなふうにならないことを願ってやみません。
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