気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#44 怖い怪獣映画№1 ~ゴジラ対ヘドラ~

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 何を今更という感じですが、なんとなくDVDを見てしまったので、書きます。

 この『ゴジラ対ヘドラ』は、シリーズ最大の異端児で、それはヘドラの造形をひと目見ればわかります。

 ヘドロにコンブを植え付けたみたいな身体にぬらりひょんみたいなでかい頭。

 その両側に縦長の眼があるのですが、これが真っ赤でしかもおま〇こそっくり。

 その中にダイオウイカ並みに大きく異様にリアルな眼球がはまっています。

 また、怒ると後頭部から赤い脳味噌がせり出してくるという念の入り具合。

 ここまでくると、怪獣というよりまるっきり妖怪ですね。

 体長60メートルの、ばい煙やヘドロを食って成長する妖怪です。

 しかし、いったいだれが、こんな不気味な怪獣を予想したでしょうか。

 おそらく当時、『東宝チャンピオン祭り』のノリで見に行った子供たちは、このヘドラの雄姿にひとり残らずもん絶し、そのあまりの怖さに失禁したに違いありません。

 しかも、このヘドラ、怖いのは外観だけではないのです。

 まず、ヘドラは毒素満載のヘドロを垂れ流し、それを銃弾のように発射することができます。

 更に第3形態の円盤型に変身すると空も飛べるのですが、その際、高濃度の硫酸ミストを噴出するため、地上は広範囲の光化学スモッグで死亡者続出。金属は腐食し、生き物はことごとく骨になってしまいます。その被害はざっと関東圏だけで1000万人。関東大震災の比ではありません。ちなみにゴジラも片目を潰され、右手の骨が露出した状態に。まさにゴジラ映画史上、最強の敵怪獣といえましょう。

 で、死闘の末、ゴジラの熱線でやっと焼け死んだと思ったら、乾燥した外皮を突き破って新たな身体がどどーんと飛び出してきたりする、『キャリー』も真っ青のなかなかホラーなやつなのです。

 そんな映画なので、人間パートもシュールです。主人公の少年は、兄とその恋人に遊園地に遊びに連れていってもらうのですが、ヘドラが出たとたん、なんと、おとなふたりは小学生の彼を置き去りにして逃げてしまいます。その悪行が祟ったのか、兄はラスト近くで「ヘドラは火に弱いんだ」と何の根拠もなく叫びながら松明片手にヘドラに突進し、あえなく骸骨に。彼の呼びかけで富士の裾野で『世紀末ゴーゴー大会』を開催すべく集まった全国の若者たちは、同様にヘドラに瞬殺されてしまいます。(ただし、この時死ぬのはあの兄貴の妄言を信じてヘドラに立ち向かった男達だけで、主人公の少年と兄貴の彼女をはじめとする女性と子どもはなぜか生き残ります)。そしてなにより不気味なのは、その様子を草葉の陰からじっと見守るゾンビみたいな地元民の老人たち。まるで若者たちの無駄死にを内心嘲笑っているかのように、ただ死んでいく彼らをじっと見ているのです。「水銀コバルトストロンチウム~♪」なる奇怪な主題歌も耳にこびりついて離れません。

 これほど魔王感満載のヘドラですが、『ゴジラ・ファイナルウォーズ』では、エビラとセットで登場し、一秒とたたぬうちにゴジラに投げ飛ばされたエビラのはさみで串刺しにされて終わりという、あまりに悲しい扱いでした。この映画も、ゴジラシリーズの中ではワースト1に上げられる怪作なのですが、個人的にはけっこう好き。でも、ヘドラ登場のシーンだけは許せない。監督には、子どもたちを心底震え上がらせたあのヘドラの尊厳を返してほしいと言いたいです。

 なので私はぜひハリウッドでヘドラをリメイクしてほしいと切に願うのです。あるいはシン・ゴジラの続編に登場させていただくとか。(そういえば劇中粗相しまくる第2形態”蒲田君”って割とヘドラっぽいし)。

 ちなみに私は子供の頃、ヘドラはなんとなく赤い眼玉以外は真っ黒だと思い込んでいたのですが、大人になってガレージキットを買って組み立ててみたら全身銀色でした。そういえば、映画でも昼間の飛翔シーンなどはちゃんと銀色をしてましたね。人間の記憶とは、ほんと、あてにならないものです。
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