気まぐれシネマレビュー

戸影絵麻

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#22 進化する金田一耕助 ~獄門島(2016年NHK版)~

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 お馴染み、横溝正史原作の「獄門島」はこんな話です。

 終戦から1年経った昭和21年9月下旬。金田一耕助は、引き揚げ船内でマラリアで死んだ戦友・鬼頭千万太の死を知らせるため、千万太の故郷・瀬戸内海に浮かぶ、獄門島へと船で向かっていた。金田一は、千万太が息絶える前に残したある言葉が気に掛かっていた。 
「おれが帰ってやらないと、3人の妹たちが殺される…」(wikより引用)

 ちなみに、これは映画ではありません。2016年にNHKBSプレミアムで放映されたスペシャルドラマです。
 では、なぜ今回これを取り上げたかというと、クライマックスがあまりに衝撃的だったからです。

「獄門島」はこれまで何度も映画化・テレビドラマ化されており、石坂浩二、古谷一行、片岡鶴太郎などが金田一耕助を演じてきました。今回主役を務めるのは、「シン・ゴジラ」でも主役の若き政治家を演じた長谷川博巳。ドラマはお馴染みのストーリーをなぞり、淡々と山場に向かって進んでいきます。中盤までの長谷川博巳は可もなく不可もなく、先人たち同様ステレオタイプの金田一耕助を演じており、特に目立ったところはありません。特筆すべきなのは、殺される3姉妹がいかにも頭の軽そうな現代風ギャルぞろいで、いい味を出していたことぐらい。ああ、こういう展開だったなあ、あのトリックはこうで…でも、さすがNHK、お金かけてるなあ…などとぼんやり見ていたら、衝撃は最後に突然やってきました。

 金田一耕助ものの山場と言えば、関係者を集めて耕助がとつとつと謎解きの説明をする、と相場は決まっています。ところがこの長谷川金田一耕助は、全然そうではなかったのです。

 真犯人の奥田瑛二を前に謎解きを始めた耕助は、相手に反論されると激高し、ついには犯人を罵倒し始めます。
 悪魔が乗り移ったような狂気に満ちた表情で、叫び、なじり、嘲り、最後には「ははは、面白いことを教えてやろう。実は本家の○○も戦死してたんだよ。つまりあんたたちのやったことは、まったくの無駄だったわけだ! どうだ、思い知ったか! ざまあみろ!」
 みたいな感じで犯人を徹底的に追い詰め、結果、発狂させてしまうのです。

 こうなると、もはや「型破り」とか「エキセントリック」とかのレベルではありません。はっきり言って、狂っているのは探偵であるはずの金田一耕助その人です。犯人を言葉で追い詰め、発狂させてしまう探偵なんて、生まれて初めて見ました。ほんと、これはすごかった。

 ちなみに長谷川博巳といえば、映画版「進撃の巨人」でも変な役をやっていたような…。
 
 前回の石原さとみといい、日本にも芸達者な役者さんがたくさんいて、本当に先が楽しみです。


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