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第5章 屑肉と化した女戦士は魔王討伐の夢を見るか
#33 禁断の地⑳
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「虫の知らせですか。さすがですね、クロエ」
サトが皮肉っぽく微笑んで、まなざしを天井に向けた。
つられてその視線を追ったアニムスは、そこで危うく声を上げそうになった。
部屋の天井が、ざわざわ蠢いている。
目を凝らしてよく見ると、それはおびただしい数の虫だった。
背中に透明な翅を生やしたハエのような昆虫が、びっしりと天井に止まっているのだ。
「だが、サト、お主がなぜその達磨女に執着するのかまでは、わしにもわからぬ。いや、そもそも興味もない」
鉤のように折れ曲がった大きな鼻をさすりながら、淡々とした口調で老婆が続けた。
「更にいえば、ミネルヴァの軍事力も東大陸の不穏な動きも、わしにはどうでもいいことじゃ」
「では、クロエ、あなたはもはや、歳を取りすぎて、何にも興味をもたないと?」
サトがかすかに嘲笑の混じった声で問う。
「そうは言っておらぬ」
老婆の目が、下からじっとサトをねめつける。
「例えば、サト。お主は見返りに何をわしにくれるのかの? まさか、タダで手を貸せとでも?」
「私の要求は、ミネルヴァの要求。さっき、そう言ったはずですが。あなたに選択の余地はないのでは?」
「この村を焼き払っても、達磨女は助からぬ。わしがその気にならぬ限りは。それはお主もわかっておろう」
「しかたありませんね」
サトがため息をついた。
「了解しました。クロエ、あなたがそこまでおっしゃるのなら」
世捨て人のような老婆との問答に、根負けしたようだ。
「ではお聞きします。クロエ、あなたの望みは何ですか? 私にできることなら、なんなりと。ただし、ルビイの治療と引き換えに」
「快楽じゃよ」
老婆がうっすらと口角を吊り上げた。
「夢の中での幻の快楽にはもう飽きた。わしは死ぬ前に、おまえのもたらす肉の快楽とやらを味わってみたい」
「馬鹿な」
サトの頬に赤みが差した。
「あれほど肉の快楽を嫌い、私の両親を殺して私を奴隷にしたあなたが、それを口にするのですか?」
「わしはもう何十年もの間、真の快楽から遠ざかっておる。幻影に長く浸りすぎたのか、何を試してみても、快感を得られない。それで、最近、思うのじゃ。もしや、生のセックスでなら、再び肉の歓びを味わえるのではと」
「勝手ですね。私の人生に対する冒とくのつもりですか」
その声を聞いて、アニムスはようやく気づいた。
サトは怒っているのだ。
「そんな気はさらさらないわ。わかると思うが、わしは外界の何にも興味を持たぬ。興味があるのはこの身のことだけ。今はただ、一刻も早く、昔のような快楽に浸りたい。それしか考えておらぬのだ」
「いいでしょう」
ややあって、サトがうなずいた。
「あなたが約束してくださるのなら」
「むろんだ」
老婆もうなずいた。
「わしを真のオルガスムスに導いてくれたなら、そこのルビイとやらに力を貸してやろう」
言いながら、小柄な身体を幾重にも覆った着物を脱いでいく。
え?
その下から現れた肉体を見て、アニムスは絶句した。
ま、まさか。
どうなってんだ? これ?
サトが皮肉っぽく微笑んで、まなざしを天井に向けた。
つられてその視線を追ったアニムスは、そこで危うく声を上げそうになった。
部屋の天井が、ざわざわ蠢いている。
目を凝らしてよく見ると、それはおびただしい数の虫だった。
背中に透明な翅を生やしたハエのような昆虫が、びっしりと天井に止まっているのだ。
「だが、サト、お主がなぜその達磨女に執着するのかまでは、わしにもわからぬ。いや、そもそも興味もない」
鉤のように折れ曲がった大きな鼻をさすりながら、淡々とした口調で老婆が続けた。
「更にいえば、ミネルヴァの軍事力も東大陸の不穏な動きも、わしにはどうでもいいことじゃ」
「では、クロエ、あなたはもはや、歳を取りすぎて、何にも興味をもたないと?」
サトがかすかに嘲笑の混じった声で問う。
「そうは言っておらぬ」
老婆の目が、下からじっとサトをねめつける。
「例えば、サト。お主は見返りに何をわしにくれるのかの? まさか、タダで手を貸せとでも?」
「私の要求は、ミネルヴァの要求。さっき、そう言ったはずですが。あなたに選択の余地はないのでは?」
「この村を焼き払っても、達磨女は助からぬ。わしがその気にならぬ限りは。それはお主もわかっておろう」
「しかたありませんね」
サトがため息をついた。
「了解しました。クロエ、あなたがそこまでおっしゃるのなら」
世捨て人のような老婆との問答に、根負けしたようだ。
「ではお聞きします。クロエ、あなたの望みは何ですか? 私にできることなら、なんなりと。ただし、ルビイの治療と引き換えに」
「快楽じゃよ」
老婆がうっすらと口角を吊り上げた。
「夢の中での幻の快楽にはもう飽きた。わしは死ぬ前に、おまえのもたらす肉の快楽とやらを味わってみたい」
「馬鹿な」
サトの頬に赤みが差した。
「あれほど肉の快楽を嫌い、私の両親を殺して私を奴隷にしたあなたが、それを口にするのですか?」
「わしはもう何十年もの間、真の快楽から遠ざかっておる。幻影に長く浸りすぎたのか、何を試してみても、快感を得られない。それで、最近、思うのじゃ。もしや、生のセックスでなら、再び肉の歓びを味わえるのではと」
「勝手ですね。私の人生に対する冒とくのつもりですか」
その声を聞いて、アニムスはようやく気づいた。
サトは怒っているのだ。
「そんな気はさらさらないわ。わかると思うが、わしは外界の何にも興味を持たぬ。興味があるのはこの身のことだけ。今はただ、一刻も早く、昔のような快楽に浸りたい。それしか考えておらぬのだ」
「いいでしょう」
ややあって、サトがうなずいた。
「あなたが約束してくださるのなら」
「むろんだ」
老婆もうなずいた。
「わしを真のオルガスムスに導いてくれたなら、そこのルビイとやらに力を貸してやろう」
言いながら、小柄な身体を幾重にも覆った着物を脱いでいく。
え?
その下から現れた肉体を見て、アニムスは絶句した。
ま、まさか。
どうなってんだ? これ?
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