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第3章 魔獣の巣窟
#28 王立生物学研究所⑭
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奇妙な色の空の下、円形に切り取られた床が浮かんでいる。
血のように赤い空間に黄色の雲。
その厚い雲の中ではひっきりなしに雷鳴が轟いていた。
「ここは、召喚魔法で形成されるバトルフィールドです。召喚獣を倒さねば、元の世界には戻れません」
地面に片膝をついたエリスが、薄気味悪げに周囲を見回して、言った。
「私は召喚魔法は使えませんが、魔法学校の実習で何度か・・・」
そのエリスの声をかき消すように、雷鳴がルビイの鼓膜をつんざいた。
ルビイたちは、円形の大地の端にうずくまっている。
宙に浮かんだ大地の下は、空と同じ色の何もない空間だ。
「てことは、あれが召喚獣というわけか」
むっくり起き上がったアニムスが、地平の果てに目を凝らしてつぶやいた。
「でかいな。寝そべってても、肩までの高さが王宮の門ぐらいはありそうだ」
アニムスに指摘されるまでもなかった。
ルビイもそれに気づいていた。
円周の直径のちょうど反対側に、燃えるように赤い小山のようなものが見える。
小山には大地を踏みしめる4本のたくましい肢があり、筋肉の隆起した頑丈そうな肩には首が3つついていた。
「地獄の番犬、ケルベロス」
兄の手を握りしめ、アニマが言った。
「凶悪な爪と牙に加え、炎の息、氷の息、風の息を吐くカテゴリ3の召喚獣」
「私に倒させてもらえませんか?」
ふらふらとエリスが立ち上がった。
「召喚獣を倒せば、倒した魔導士はその召喚獣をしもべとして駆使できるようになる。魔法学校で、そう教わりました。これは私にとって、最大のチャンスなのです」
「ひとりでは無理だ。落ち着け、エリス」
風に吹かれて倒れそうなエリスをその巨体でかばうように、マグナが立ち上がった。
「そう、マグナの言う通り」
ふたりに歩み寄ると、ルビイはエリスの震える肩に手を置いた。
「何のためのチームなの。もちろん、とどめはあなたが刺せばいい。でも、その前に全員で力を合わせて”あれ”を弱体化させるのよ」
「そ、そうですよね。私ひとりでは、それこそ無駄死にですよね」
両手を胸の前で組み、ぶるぶる震えるエリスにサトが寄り添った。
「敵の首は3つ。ひとつをルビイさまが、ひとつをマグナさまが、残りのひとつをアニムスさまとアニマさまが担当するのです。エリスさまは後方から魔法で攻撃を。もちろん、このサトが、魔法の出力が最大限になるよう、サポートします」
言いながら、サトの右手はすでに胸元からエリスの乳房に伸びている。
エリスの性感帯を刺激して、魔法の威力を高めようというのだろう。
「ああ、サトったら、またそんなとこ・・・」
頬を開けに染め、さっそく身をよじり出すエリス。
「サト、おまえ、本当に性奴なのか? いっぱしの戦術家みたいな口、ききやがって」
格下のサトに指示を出されて、アニムスがむっとする。
「でも、サトの言う通りだわ。あいつを叩くにはそれしかない。あれのメインウェポンがブレスなら、一か所に固まって攻撃すれば、こっちが全滅しかねない。私は真ん中の首。マグナは向かって左の首、双子は向かって右側の首。それでいい?」
「まあ、ルビイが言うなら」
ルビイの提案に、アニムスが不承不承うなずいた。
「右の首だな。了解した」
マグナがボキボキと組んだこぶしの関節を鳴らす。
雷鳴をしのぐすさまじい咆哮が轟き渡ったのは、その瞬間だった。
円柱のような足をふんばり、ケルベロスがその巨大な体躯を起こしたのだ。
血のように赤い空間に黄色の雲。
その厚い雲の中ではひっきりなしに雷鳴が轟いていた。
「ここは、召喚魔法で形成されるバトルフィールドです。召喚獣を倒さねば、元の世界には戻れません」
地面に片膝をついたエリスが、薄気味悪げに周囲を見回して、言った。
「私は召喚魔法は使えませんが、魔法学校の実習で何度か・・・」
そのエリスの声をかき消すように、雷鳴がルビイの鼓膜をつんざいた。
ルビイたちは、円形の大地の端にうずくまっている。
宙に浮かんだ大地の下は、空と同じ色の何もない空間だ。
「てことは、あれが召喚獣というわけか」
むっくり起き上がったアニムスが、地平の果てに目を凝らしてつぶやいた。
「でかいな。寝そべってても、肩までの高さが王宮の門ぐらいはありそうだ」
アニムスに指摘されるまでもなかった。
ルビイもそれに気づいていた。
円周の直径のちょうど反対側に、燃えるように赤い小山のようなものが見える。
小山には大地を踏みしめる4本のたくましい肢があり、筋肉の隆起した頑丈そうな肩には首が3つついていた。
「地獄の番犬、ケルベロス」
兄の手を握りしめ、アニマが言った。
「凶悪な爪と牙に加え、炎の息、氷の息、風の息を吐くカテゴリ3の召喚獣」
「私に倒させてもらえませんか?」
ふらふらとエリスが立ち上がった。
「召喚獣を倒せば、倒した魔導士はその召喚獣をしもべとして駆使できるようになる。魔法学校で、そう教わりました。これは私にとって、最大のチャンスなのです」
「ひとりでは無理だ。落ち着け、エリス」
風に吹かれて倒れそうなエリスをその巨体でかばうように、マグナが立ち上がった。
「そう、マグナの言う通り」
ふたりに歩み寄ると、ルビイはエリスの震える肩に手を置いた。
「何のためのチームなの。もちろん、とどめはあなたが刺せばいい。でも、その前に全員で力を合わせて”あれ”を弱体化させるのよ」
「そ、そうですよね。私ひとりでは、それこそ無駄死にですよね」
両手を胸の前で組み、ぶるぶる震えるエリスにサトが寄り添った。
「敵の首は3つ。ひとつをルビイさまが、ひとつをマグナさまが、残りのひとつをアニムスさまとアニマさまが担当するのです。エリスさまは後方から魔法で攻撃を。もちろん、このサトが、魔法の出力が最大限になるよう、サポートします」
言いながら、サトの右手はすでに胸元からエリスの乳房に伸びている。
エリスの性感帯を刺激して、魔法の威力を高めようというのだろう。
「ああ、サトったら、またそんなとこ・・・」
頬を開けに染め、さっそく身をよじり出すエリス。
「サト、おまえ、本当に性奴なのか? いっぱしの戦術家みたいな口、ききやがって」
格下のサトに指示を出されて、アニムスがむっとする。
「でも、サトの言う通りだわ。あいつを叩くにはそれしかない。あれのメインウェポンがブレスなら、一か所に固まって攻撃すれば、こっちが全滅しかねない。私は真ん中の首。マグナは向かって左の首、双子は向かって右側の首。それでいい?」
「まあ、ルビイが言うなら」
ルビイの提案に、アニムスが不承不承うなずいた。
「右の首だな。了解した」
マグナがボキボキと組んだこぶしの関節を鳴らす。
雷鳴をしのぐすさまじい咆哮が轟き渡ったのは、その瞬間だった。
円柱のような足をふんばり、ケルベロスがその巨大な体躯を起こしたのだ。
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