魔王にレイプされてゴミのように棄てられた女戦士は、悪役令嬢に生まれ変わって復讐します

第2章 跪いて足をお舐め

#57 暗黒武闘会⑱

　白銀の鎧に身を包んだマリウスは、以前会った時と比べ、格段にたくましく見えた。

　特訓の成果なのか、育ちの良さを示す頬の丸みも取れ、精悍な顔立ちになっている。

「さっきの戦いぶり、見せてもらったわ。なかなか筋がいいようね。ちょっと見直した」

　気のない口調を装ってルビイが言うと、

「はは、さすがいくさ乙女の娘だ。言うことが手厳しい」

　マリウスが破顔した。

「それだけじゃないの、知ってるでしょ。私の父は、”彼”だしね」

「ふふ、そうだね。まあ、それはそれとして」

　真顔になるマリウス。

「試合前にここへ来たのは、ほかでもない。ひとつ、どうしても言っておきたいことがあって…」

「なあに？　敵前視察？　私がどんな武器を使うとか？」

「そうじゃない。君の戦い方は部下たちから聞かされて知ってるよ。女だてらに素手でアギを、ナックルでテオを半殺しにしたんだってね。剣も楯もなしに強者ふたりを倒したって、僕の周りは君のうわさで持ち切りさ」

「じゃ、何なの？　まさか、八百長の申し入れじゃないでしょうね？」

　マリウスの澄んだ瞳を見れば、彼にそんな気がないことはひと目でわかる。

　それでもあえて難癖をつけたのは、”悪役令嬢”ぶりを演出するためだった。
　
　案の定、マリウスの顔色が変わった。

「そうじゃない。君までそんな目で僕を見てたのか。世間は陰で色々言ってるようだけど、これまでの試合も僕は実力で勝ち上がってきた。こう見えても、子どものころから剣にだけは自信があるんだ。別に勝たせてくれと頼んだわけじゃない」

「そう？　だったらどうなの？」

「僕が言いたいのはむしろその逆だ。皇子だからって、手加減しないでほしい。そう君に言いたかっただけなんだ。その代わり、僕も全力で戦わせてもらう。君は僕とターニャの命の恩人だけど、それはこの際置いといて」

「ふふっ」
　
　ルビイは吹き出した。

「なにその熱血宣言。皇子さまは、相変わらずの甘ちゃんね」

　口ではそうからかいながら、実のところ、ルビイはその反面、心の中でちょっとした感動を覚えていた。

　マリウス…あなたって、なんていい人なの。

　心底から、そう思ったからだった。