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第2章 跪いて足をお舐め
#54 暗黒武闘会⑮
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もうひとつのステージは、つめかけた観客たちがぎっしりと周囲を取り囲み、まるで近づけない有様だった。
「マリウスさま!」
「皇子さま!」
あちこちで黄色い声が飛び交い、色とりどりのハンカチが打ち振られている。
「意外に人気あるんだね。マリウス皇子って」
ルビイがつぶやくと、
「ええ。ですから、婚約発表があった時には、何人も若い女性が自殺したということです」
サトが淡々とした口調でそんなことを言った。
なんとか人混みをかき分け、前へ出た。
ただし、あまり目立つとターニャやディオニス王に見つかるおそれがある。
リングの上では、ちょうどふたりの勇者が対峙したところだった。
純白の鎧に身を固めているのが、マリウスだ。
いつか見た時に比べ、その横顔は日に焼け、肉が削げ、精悍になっている。
右手に片手剣、左手に丸い盾を持ち、相手に礼儀正しくお辞儀をした。
そのマリウスに礼を返したのは、こちらも気品にあふれる美大夫だった。
年の頃はマリウスと同じ、20代前半といったところだろうか。
銀色の鎧がその均整の取れた身体によく似合っている。
「あれは?」
ルビイがかすかに唇を動かすと、喧騒の中、その声を敏感に聞き取って、サトが答えた。
「コーデリア伯のご長男、ウッドさまかと。マリウス皇子とは、寄宿学校時代からのご親友でいらっしゃいます」
「ご親友? じゃ、とんだ出来レースじゃない」
ルビイが馬鹿にしたように鼻を鳴らした時、試合が始まった。
両者が剣を交えると、マリウスの動きの良さに、ルビイは驚いた。
文人派で武芸は苦手と聞いていたのに、しっかりと基礎が身についている。
剣さばきに無駄がないし、足のステップも安定していた。
そしてなによりも、攻撃が速い。
出来レースや八百長ではなく、実力で勝ち進んできたのかもしれない。
蝶のように軽やかに舞うリング上のマリウスを見つめながら、ルビイは思った。
最初出会った時、ほのかに覚えた好意。
それが心の片隅に甦るのがわかった。
魔王を倒す足掛かりをつくるために、マリウスの愛人になれ。
スナフはそう言った。
それも悪くない。
あの若者なら、それくらいの価値があるかもしれない。
「あ。マリウスさまが勝ちましたよ」
思いに耽っていると、ルビイの手を強く握ってサトがささやいた。
「マリウスさま!」
「皇子さま!」
あちこちで黄色い声が飛び交い、色とりどりのハンカチが打ち振られている。
「意外に人気あるんだね。マリウス皇子って」
ルビイがつぶやくと、
「ええ。ですから、婚約発表があった時には、何人も若い女性が自殺したということです」
サトが淡々とした口調でそんなことを言った。
なんとか人混みをかき分け、前へ出た。
ただし、あまり目立つとターニャやディオニス王に見つかるおそれがある。
リングの上では、ちょうどふたりの勇者が対峙したところだった。
純白の鎧に身を固めているのが、マリウスだ。
いつか見た時に比べ、その横顔は日に焼け、肉が削げ、精悍になっている。
右手に片手剣、左手に丸い盾を持ち、相手に礼儀正しくお辞儀をした。
そのマリウスに礼を返したのは、こちらも気品にあふれる美大夫だった。
年の頃はマリウスと同じ、20代前半といったところだろうか。
銀色の鎧がその均整の取れた身体によく似合っている。
「あれは?」
ルビイがかすかに唇を動かすと、喧騒の中、その声を敏感に聞き取って、サトが答えた。
「コーデリア伯のご長男、ウッドさまかと。マリウス皇子とは、寄宿学校時代からのご親友でいらっしゃいます」
「ご親友? じゃ、とんだ出来レースじゃない」
ルビイが馬鹿にしたように鼻を鳴らした時、試合が始まった。
両者が剣を交えると、マリウスの動きの良さに、ルビイは驚いた。
文人派で武芸は苦手と聞いていたのに、しっかりと基礎が身についている。
剣さばきに無駄がないし、足のステップも安定していた。
そしてなによりも、攻撃が速い。
出来レースや八百長ではなく、実力で勝ち進んできたのかもしれない。
蝶のように軽やかに舞うリング上のマリウスを見つめながら、ルビイは思った。
最初出会った時、ほのかに覚えた好意。
それが心の片隅に甦るのがわかった。
魔王を倒す足掛かりをつくるために、マリウスの愛人になれ。
スナフはそう言った。
それも悪くない。
あの若者なら、それくらいの価値があるかもしれない。
「あ。マリウスさまが勝ちましたよ」
思いに耽っていると、ルビイの手を強く握ってサトがささやいた。
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