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第1章 覚醒

#39 悪役令嬢への道⑪

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 サトの涙に、ルビイは胸を突かれる思いだった。

 自分のために涙を流す他人。

 そんな者がいようとは、思ってもみなかったのだ。

 もっとも、サトはルビイがルリの身体に転生したことなど知らないから、その涙は純粋に脳死したルリを思ってのものである。

 が、それはルビイにはうれしかった。

 この子を産んでよかったと思った。

 ルリは一度も意識を持つことなく、母親である私に身体を乗っ取られてしまった。

 でも、すぐ近くにその身を案じる者がちゃんといてくれたのだ。

 スナフとサトという、ふたりが。

 
 気を取り直したように、サトが手の甲で涙をぬぐい、ルビイに向き直った。

「何をするつもりなの…?」

 愚問とわかっていながら、ルビイはそう訊ねずにはいられなかった。 

 優しい心根の持ち主でありながら、この娘の本質は性奴隷なのだ。

 その性奴隷が服を脱ぎ捨てた以上、目的は決まっている。

「サトは、ご主人さまから、ルリさまの身体の感覚を呼び覚ますようにと仰せつかっております。決して不快な思いをさせぬように、とも釘を刺されました。ですから、ご安心ください。サトは、心をこめて、ルリさまを至福の境地にお導きする所存です」

 サトは小さなバケツのような形をした小物入れを提げてきていた。

 服を脱ぐ時、手近なテーブルの上に置いたその容器から、何かチューブのようなものを取り出した。

 ふたを外すと、そのチューブを片手にルビイに近づいてきた。

 なにかしら?

 ルビイは警戒するように、サトの動きを目で追っている。

「失礼します」

 ルビイの疑念をよそに、チューブをベッドサイドのテーブルに置くと、サトが手際よくルビイのローブを脱がせにかかった。

 薄物の下から現れたのは、形よく胸当てを押し上げた乳房と、股間をかろうじて覆った小さな布切れである。

「なんてお美しい…」

 ルビイの裸体を見下ろし、サトがうっとりとつぶやいた。

「何度見ても、ルリさまのお身体はお美しいです…。覚えていらっしゃいますか? サトが毎日、このお身体を丹精込めてマッサージしてさしあげたのを…」
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