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第1章 覚醒

#31 悪役令嬢への道③

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 結局、ターニャにもマリウスにも会わず、裏の通用口からルビイは城を出た。

 王の部屋を退出する時、すれちがう瞬間、アグネスがささやいてきた言葉が、耳に残っていた。

「二度とマリウス様に近づかないでちょうだい。この化け物」

 化け物。
 
 確かにそうかもしれない。

 だが、彼らは知らないのだ。

 私が彼らの想像以上に化け物なのだということを。

 屋敷に帰ると、スナフが庭に出て、デッキチェアに身を預け、午後の紅茶をたしなんでいた。

 そばにかしこまっているのは、メイド服のサトである。

「ごめんなさい。勝手にあれを乗り回してしまって」

 ハーレーをとめた納屋のほうを振り返って、ルビイは詫びた。

「いいんだよ。それどころか、俺はむしろうれしいんだ」

 スナフが頬をほころばせて、目を細めた。

「俺の身体ではあれにはもう乗れない。いつもあれに済まないと思い続けてたところだったから。後継者ができて、あいつもきっと喜んでるに違いない」

「そう言ってもらえると…」

「おまえにぴったりのツナギをつくらせよう。とびきりセクシーで、クールなやつをな。それからその義手と義足だが、もっと高性能で、戦闘能力の高いものに替えておこう。見たところ、すでに一戦交えてきたようだ。試作品のそれでよくまあ魔物と戦えたものだ」

 さすがにスナフは鋭かった。

 ルビイの義足には、村での魔物との戦いと王都の入口での巨像との戦いで、左右ともかすかな亀裂が入っている。

 それにいち早く気づいたのだ。

「どうもこの身体、魔物を引き寄せる力があるみたい」

 スナフの前に座ると、サトが紅茶を出してくれた。

「だろうな」

 スナフはさほど驚いたふうもない。

「それで、どうだった? 久しぶりの王都は」

「王宮で早速破門を食らったわ。ミネルヴァにとって、今の私は疫病神か悪役令嬢なの。それがよくわかった」

「悪役令嬢ね。くく、その手があったか」

 スナフが楽しそうに笑った。

「せっかく転生したんだ。20年前の、正義のいくさ乙女の逆を行く人生もいいんじゃないか」
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