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第3章 逃避行
#2 故郷へ②
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それから先のことは、よく覚えていない。
煙が麻袋の中まで入ってきて、ルビイは激しくせき込んだ。
怒号と悲鳴に混じってガラスの割れる音。
スナフが廊下のランプを割り、その火が何かに燃え移ったのか、
「火事よ! 誰か水を!」
アネモネがうろたえ切った声で叫ぶのが聞こえたようだ。
何度も上下左右に揺すられ、煙を吸い込んだせいもあって、気が遠くなりかけたところに、冷たい新鮮な空気が流れ込んできた。
「よし、抜けた。もういいぞ、顔を出しても」
スナフの声に、おそるおそる袋の口から顔を出す。
そこは狭い裏路地で、見上げると、建物と建物の間の夜空に、かすかに星がまたたいていた。
「飛ばすぞ。しっかりつかまってろ…と言っても、今のおまえには無理だったな」
スナフはすでにあの鉄の馬にまたがっている。
ルビイは袋ごと、スナフの背中に縛りつけられていた。
「海岸沿いの湾岸道を行く。それが最短距離だから」
スナフが言い、右足で鉄の馬を蹴った。
爆音を響かせて、尻を蹴られた暴れ馬のように、鉄馬が飛び出した。
すさまじい風が、ルビイの髪をなびかせ、頬を叩いた。
その風を胸いっぱいに吸い込み、ルビイはようやく実感した。
生きてる…。
私、まだ、生きてるんだ…。
煙が麻袋の中まで入ってきて、ルビイは激しくせき込んだ。
怒号と悲鳴に混じってガラスの割れる音。
スナフが廊下のランプを割り、その火が何かに燃え移ったのか、
「火事よ! 誰か水を!」
アネモネがうろたえ切った声で叫ぶのが聞こえたようだ。
何度も上下左右に揺すられ、煙を吸い込んだせいもあって、気が遠くなりかけたところに、冷たい新鮮な空気が流れ込んできた。
「よし、抜けた。もういいぞ、顔を出しても」
スナフの声に、おそるおそる袋の口から顔を出す。
そこは狭い裏路地で、見上げると、建物と建物の間の夜空に、かすかに星がまたたいていた。
「飛ばすぞ。しっかりつかまってろ…と言っても、今のおまえには無理だったな」
スナフはすでにあの鉄の馬にまたがっている。
ルビイは袋ごと、スナフの背中に縛りつけられていた。
「海岸沿いの湾岸道を行く。それが最短距離だから」
スナフが言い、右足で鉄の馬を蹴った。
爆音を響かせて、尻を蹴られた暴れ馬のように、鉄馬が飛び出した。
すさまじい風が、ルビイの髪をなびかせ、頬を叩いた。
その風を胸いっぱいに吸い込み、ルビイはようやく実感した。
生きてる…。
私、まだ、生きてるんだ…。
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