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#360 若い牝⑤

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「違うわ。そんなんじゃない」
 琴子は珍しく、言葉を荒げていた。
 いきなり真相を言い当てられた屈辱に、完全に気が動転してしまっていたのだ。
「あなた、いったいどういうつもりなの? 人の家に押しかけてきたと思ったら、失礼なことばっかり。それじゃ、まるで…」
「私が、発情したレズビアンみたいじゃない!、ですか?」
 梨乃にあっさり後を引き取られて、絶句してしまう琴子。
「な、なによ、それ…」
「隠さなくてもいいですよ。そのことも、当然、仁美姉さんから聞いていますから」
「ま、まあ…」
 こうなると、琴子としては赤くなるしかない。
 でも、こんな年端もいかない娘にやり込められたままというのも、しゃくだった。
 これじゃまるで、私が何か悪いことでもしてたみたいじゃない。
 私はただ、いつものように我が家でくつろいでいただけなのに…。
 そりゃあ、多少はムラムラしてしまったってことは、あるけれど…。
 でもそれだって、健康な成人女性ならば、誰もがしていることだろう。
 琴子は反転攻勢に出ることにした。
「梨乃さん、あなたはどうなの? 女の人の身体に興味はあるの?」
 身を乗り出して、詰め寄った。
 琴子の来ているサマーセーターは襟ぐりが深く空いていて、胸の谷間が強調されている。
 梨乃の視線がその谷間に注がれるのがわかった。
「そ、それは…」
 今度は梨乃が頬を染める番だった。
「仁美さんはバイセクシャルよね? ということは、妹であるあなたがそうであってもおかしくないわ」
「わからないんです」
 梨乃が真顔になって琴子を見つめ返してきた。
「男の人とは何度か付き合ったことがあるけれど、女の子とは経験がなくって…。姉は、女のほうが断然いいからって、薦めてくるんですけど、まさか、姉妹で、そんなこと、するわけにもいかないし…」
「だからなのね。だから私の元に」
 ハッと胸落ちする気分だった。
 だから仁美は私を紹介したのか。
 自分の家を空けたのも、ひょっとして、そんな計画の一環だったのかもしれない。
「どうなんでしょうか…かなりぶっ飛んだ性格なので、姉の考えることは、私には、正直、よくわかりません。ただ、興味がないことも、ないんです」
「興味って?」
「そ、その、レズビアンの世界って、ものに」
 ひたと見つめてくるその瞳には、かすかな欲情の揺らぎが見えるようだ。
「つまりあなたはこの私に、レズプレイの手ほどきをしてほしいと、そういうことなのね」
 詰問口調で琴子が詰め寄ると、梨乃はますます頬を薔薇色に染め、
「そんなにはっきり、言わないでください…。恥ずかしいじゃないですか」
 蚊の鳴くような声でそう抗議した。
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