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#237 水の中の淫女たち⑪
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アッと思った時には、すでに水中だった。
琴子はあまり泳ぎが得意ではない。
中学、高校の体育の授業でも、躰が柔らかいことだけが取り柄で、それ以外はからっきしだったのだ。
運動神経に恵まれていないというのもその理由だが、胸が大きすぎるというのもハンデのひとつだった。
躰が成熟に向かうにつれ、琴子は自分が運動に向かないという事実を、身をもって痛感させられたものである。 そんなわけで、水泳も、高校生の時、平泳ぎで200メートル泳いだのが最高だった。
といっても、タイムはクラスでビリで、溺れる寸前になんとかゴールできたようなものだったのだが・・・。
それからもう20年以上経っている。
しかも、この20年間というもの、和夫が小学生の時、半年ほど一緒に近所のスイミングスクールに通ったこと以外に、プールでも海でも泳いだ記憶がない。
足がつかない恐怖感に、琴子はあぶなく水を飲みそうになった。
あわてちゃいけない!
落ち着くの!
自分に言い聞かせ、水中で眼を開く。
塩素が眼に沁みるのを我慢して足元を見ると、つま先の30センチほど下にコンクリートの底が見えた。
ここはかなり深い。
水深2メートルはありそうだ。
揺れる透明な水を透かして前方に視線をやると、水底はなだらかなカーブを描いてせり上がり、次第に浅くなっているようだった。
せめてもう少し前進して、足のつくところまで行こう。
両腕で水を掻き、両足で水を蹴る。
あまりのブランクに、手足の動きがバラバラになり、ほとんど身体が前に進まない。
と、びっくりするくらい近くで水柱が連続して上がり、水面に首だけ出した琴子のほうに、高い波が押し寄せてきた。
まずい。
まともに波をかぶり、激しくせき込みながら、琴子は心の中で舌打ちをした。
改めて、いうまでもない。
チエミとダダ子だ。
あの巨女コンビが、琴子を追ってプールに飛び込んできたのに違いない。
捕まったら大変だ。
琴子は懸命に水を掻く。
「奥さ~ん、お・ま・た・せ!」
ダダ子の黄色い声が後ろから迫ってくる。
「どうしたんですかあ? まさか、溺れてるんじゃないでしょうねえ?」
半ばからかうような声。
これはチエミだ。
ちらっと横目で背後の様子を窺うと、ふたりとも、水泳は得意らしく、余裕の表情で水面に顔を出していた。
気を取られちゃダメ。
とにかく今は、浅瀬までなんとか辿り着かなくては。
焦ると手足のバランスがますますおかしくなっていく。
チエミではないが、これでは溺れていると勘違いされても不思議ではない。
幸い、豊満な胸が浮袋の役割を果たしているので上半身は浮いたままなのだが、悲しいことに推進力がない。
「奥さん、本気で溺れてるみたいだね」
「大変! 助けてあげないと!」
楽しそうに言い交わし、優雅に抜き手を切って、チエミとダダ子が泳ぎ出す。
「きっと水着がきついんだよ」
「だよね。早く裸に剥いてあげなきゃね」
やめて!
そう叫ぼうとした瞬間、琴子の右足首を、グローブのような手がぎゅっとつかんできた。
琴子はあまり泳ぎが得意ではない。
中学、高校の体育の授業でも、躰が柔らかいことだけが取り柄で、それ以外はからっきしだったのだ。
運動神経に恵まれていないというのもその理由だが、胸が大きすぎるというのもハンデのひとつだった。
躰が成熟に向かうにつれ、琴子は自分が運動に向かないという事実を、身をもって痛感させられたものである。 そんなわけで、水泳も、高校生の時、平泳ぎで200メートル泳いだのが最高だった。
といっても、タイムはクラスでビリで、溺れる寸前になんとかゴールできたようなものだったのだが・・・。
それからもう20年以上経っている。
しかも、この20年間というもの、和夫が小学生の時、半年ほど一緒に近所のスイミングスクールに通ったこと以外に、プールでも海でも泳いだ記憶がない。
足がつかない恐怖感に、琴子はあぶなく水を飲みそうになった。
あわてちゃいけない!
落ち着くの!
自分に言い聞かせ、水中で眼を開く。
塩素が眼に沁みるのを我慢して足元を見ると、つま先の30センチほど下にコンクリートの底が見えた。
ここはかなり深い。
水深2メートルはありそうだ。
揺れる透明な水を透かして前方に視線をやると、水底はなだらかなカーブを描いてせり上がり、次第に浅くなっているようだった。
せめてもう少し前進して、足のつくところまで行こう。
両腕で水を掻き、両足で水を蹴る。
あまりのブランクに、手足の動きがバラバラになり、ほとんど身体が前に進まない。
と、びっくりするくらい近くで水柱が連続して上がり、水面に首だけ出した琴子のほうに、高い波が押し寄せてきた。
まずい。
まともに波をかぶり、激しくせき込みながら、琴子は心の中で舌打ちをした。
改めて、いうまでもない。
チエミとダダ子だ。
あの巨女コンビが、琴子を追ってプールに飛び込んできたのに違いない。
捕まったら大変だ。
琴子は懸命に水を掻く。
「奥さ~ん、お・ま・た・せ!」
ダダ子の黄色い声が後ろから迫ってくる。
「どうしたんですかあ? まさか、溺れてるんじゃないでしょうねえ?」
半ばからかうような声。
これはチエミだ。
ちらっと横目で背後の様子を窺うと、ふたりとも、水泳は得意らしく、余裕の表情で水面に顔を出していた。
気を取られちゃダメ。
とにかく今は、浅瀬までなんとか辿り着かなくては。
焦ると手足のバランスがますますおかしくなっていく。
チエミではないが、これでは溺れていると勘違いされても不思議ではない。
幸い、豊満な胸が浮袋の役割を果たしているので上半身は浮いたままなのだが、悲しいことに推進力がない。
「奥さん、本気で溺れてるみたいだね」
「大変! 助けてあげないと!」
楽しそうに言い交わし、優雅に抜き手を切って、チエミとダダ子が泳ぎ出す。
「きっと水着がきついんだよ」
「だよね。早く裸に剥いてあげなきゃね」
やめて!
そう叫ぼうとした瞬間、琴子の右足首を、グローブのような手がぎゅっとつかんできた。
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