162 / 385
#160 痴女の罠⑧
しおりを挟む
夫婦は町田と名乗った。
このマンションの2階に住んでいるという。
ふたりとも、歳の頃は40台半ばだろうか。
夫の町田勇作は、小柄で小太りの中年男性で、大人しそうな印象だ。
それに反して妻の綾子のほうは、固太りで押し出しのいい体格をしていた。
気弱そうな夫に比べ、いかにも我の強そうな濃い顔立ちをしている。
琴子は高校の時苦手だった体育教師を連想し、少し嫌な気分になった。
「あの…ご用件は?」
居間に通し、よく冷えた麦茶を出すと、自分も夫妻の向かい側に座って、琴子はたずねた。
「きのうはどうも」
夫のほうが眼鏡の奥から眩しげに琴子を見た。
琴子は赤くなり、目を逸らす。
予想通りだった。
ただ、それでどうするつもりなのか、そこがわからない。
警察に訴えるとでもいうのか。
あるいは金品をせびろうという魂胆なのか…。
「動画、撮りましたよ」
琴子にすっかり気を取られている夫を不愉快そうに横目で見て、すかさず妻のほうが言った。
「ご覧になりますか?」
スマホをテーブルの上に置き、画面を琴子に見せようとした。
「いえ、けっこうです」
うなだれたまま顔を逸らし、琴子はかぶりを振った。
今更驚くことでもなかった。
ゆうべ集まってきた観客たちは、大半がスマホで動画撮影していたのである。
「お金、ですか…?」
今更言い訳をしても、意味がなかった。
誰の眼にも、琴子自身がアレを愉しんでいたことは明らかだったからだ。
仁美でも和夫でも正一でもなく、あのプレイの主人公は琴子だった。
おそらくその証拠は、いくら琴子が否定しても、克明に動画に残されているに違いなかった。
「あなた、何を、馬鹿にしないでください」
とたんに綾子が眼を剥き、顔を真っ赤にした。
どうやら怒ったらしい。
「まあまあ」というように、勇作がその手を取ってなだめにかかる。
「あなたは、私たちをゆすりやたかりとでも思ってるのですか?」
怒った顔は、運動のできない琴子を虐めた体育教師にますますそっくりだった。
「違うんですか?」
琴子は顔を上げ、綾子を見つめた。
ふつふつと怒りが湧いてきていた。
確かに悪いのは私たちだ。
でも…私たちは、ただセックスを愉しんでいただけなのだ。
他人にとやかく言われる筋合いなんて、金輪際、ないのだから…。
「お金なんて、ばかばかしい」
綾子は憤怒の形相で正面から琴子を睨みつけている。
「私たちはただ…」
「ただ、何なんです?」
「いや、その」
突然言いよどんだ妻に変わって口をはさんだのは、夫の勇作のほうだった。
「私たち夫婦は、ゆうべのあなた方を見て、思ったんですよ。矢部琴子さん、あなたなら、協力してくれるのではないかとl
「協力? というと?」
「セックスです。お恥ずかしい話ですが、私たち夫婦はよく言う倦怠期でして…。そんな私たち夫婦に、あなたなら、何かすごい刺激を与えてくださるのではないかと思いましてね……」
このマンションの2階に住んでいるという。
ふたりとも、歳の頃は40台半ばだろうか。
夫の町田勇作は、小柄で小太りの中年男性で、大人しそうな印象だ。
それに反して妻の綾子のほうは、固太りで押し出しのいい体格をしていた。
気弱そうな夫に比べ、いかにも我の強そうな濃い顔立ちをしている。
琴子は高校の時苦手だった体育教師を連想し、少し嫌な気分になった。
「あの…ご用件は?」
居間に通し、よく冷えた麦茶を出すと、自分も夫妻の向かい側に座って、琴子はたずねた。
「きのうはどうも」
夫のほうが眼鏡の奥から眩しげに琴子を見た。
琴子は赤くなり、目を逸らす。
予想通りだった。
ただ、それでどうするつもりなのか、そこがわからない。
警察に訴えるとでもいうのか。
あるいは金品をせびろうという魂胆なのか…。
「動画、撮りましたよ」
琴子にすっかり気を取られている夫を不愉快そうに横目で見て、すかさず妻のほうが言った。
「ご覧になりますか?」
スマホをテーブルの上に置き、画面を琴子に見せようとした。
「いえ、けっこうです」
うなだれたまま顔を逸らし、琴子はかぶりを振った。
今更驚くことでもなかった。
ゆうべ集まってきた観客たちは、大半がスマホで動画撮影していたのである。
「お金、ですか…?」
今更言い訳をしても、意味がなかった。
誰の眼にも、琴子自身がアレを愉しんでいたことは明らかだったからだ。
仁美でも和夫でも正一でもなく、あのプレイの主人公は琴子だった。
おそらくその証拠は、いくら琴子が否定しても、克明に動画に残されているに違いなかった。
「あなた、何を、馬鹿にしないでください」
とたんに綾子が眼を剥き、顔を真っ赤にした。
どうやら怒ったらしい。
「まあまあ」というように、勇作がその手を取ってなだめにかかる。
「あなたは、私たちをゆすりやたかりとでも思ってるのですか?」
怒った顔は、運動のできない琴子を虐めた体育教師にますますそっくりだった。
「違うんですか?」
琴子は顔を上げ、綾子を見つめた。
ふつふつと怒りが湧いてきていた。
確かに悪いのは私たちだ。
でも…私たちは、ただセックスを愉しんでいただけなのだ。
他人にとやかく言われる筋合いなんて、金輪際、ないのだから…。
「お金なんて、ばかばかしい」
綾子は憤怒の形相で正面から琴子を睨みつけている。
「私たちはただ…」
「ただ、何なんです?」
「いや、その」
突然言いよどんだ妻に変わって口をはさんだのは、夫の勇作のほうだった。
「私たち夫婦は、ゆうべのあなた方を見て、思ったんですよ。矢部琴子さん、あなたなら、協力してくれるのではないかとl
「協力? というと?」
「セックスです。お恥ずかしい話ですが、私たち夫婦はよく言う倦怠期でして…。そんな私たち夫婦に、あなたなら、何かすごい刺激を与えてくださるのではないかと思いましてね……」
0
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる