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#132 狂った夫⑧
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琴子はみじめな夫の姿に異様なまでの高ぶりを覚えていた。
あれほど時代錯誤な男尊女卑の態度を崩さなかった正一が、萎びたペニスを握りしめ、顏を涙でくしゃくしゃにしてむせび泣いているのだ。
これまで虐げられる一方だった琴子には珍しい嗜虐的な感情が、彼女をサディストに押し上げでもしたかのように。
「だいたい、急に私を抱こうだなんて、いったいどういうつもりなの? 今までさんざん邪険に扱っておいて。大方、和夫と交わっている私の姿を盗み見して、下衆な劣情にでも見舞われたんでしょう。それこそ、あなたのほうこそ、変態性欲者だっていう証拠じゃなくって?」
自分がいじめっ子にでもなったような気分だった。
「お、俺は…どうしたらいい?」
正一が弱々しく手を伸ばし、琴子の裸の足に触ろうとする。
「どうしたら、おまえを抱けるようになる?」
「触らないで!」
伸びてきた正一の手を、琴子は冷たく足で振り払った。
「離婚したいなら、どうぞ。さっさと私と別れて、不倫中の女と再婚したら? 私は和夫を連れてこの家を出て行くわ。そうしてふたりっきりで、思いっきり濃密なセックスを愉しむの」
ついさっきまでの自分からは想像もできないほど強気の台詞が、すらすらと琴子の口をついて出た。
それほどセックスにおける優位性というのは強いものなのだ。
自信に満ちた自分と、その反対に男としての面子を失墜した正一。
今、勝者は明らかに琴子のほうだった。
一流大学を卒業し、一商社に勤め、それなりに女にもモテてきたプライドの高い正一のことである。
それまで奴隷扱いしてきた妻にこんな恥をかかされたまま、離婚に応じるはずがない。
琴子にはその打算がある。
案の定、正一はゆるゆるとかぶりを振った。
「離婚など、考えたこともない…。女とも、すぐに手を切る…。俺はおまえを、満足させたい…。今は、それしか考えられないよ」
「残念ながら、今のあなたにそれは無理。さっきも言った通り、和夫とセックスした後で、下手糞なあなたとなんか死んでもできないわ。離婚しないというなら、認めなさい。私がいつ、どこで和夫とヤっても怒らないって。せいぜい私と彼のセックスを見て、本物の歓びがどういうものなのか、勉強することね」
「琴子、おまえ…」
正一の目が、狂人を見るように見開かれた。
無理もない、と思う。
琴子は夫に実の息子とのセックスを容認しろと言っているのだ。
しかも、その行為を夫に見せつけると宣言しているのである。
「不満なの? 近親相姦だって警察にでも訴え出るつもり? それでもいいけど、そうなると、あなたはとんだ笑い者よね。息子に妻を寝取られたダメ亭主って、会社でも後ろ指さされちゃうんじゃないかしら?」
「や、やめろ…おまえ、狂ってる…」
正一が苦しげに声をしぼり出した、その時だった。
だしぬけに、テーブルの上に置いた琴子のスマートフォンが鳴り出した。
すばやく手に取って表示を見ると、意外なことに、数時間前に別れたばかりの仁美からである。
『あ、琴子さん、今、ちょっといいかしら?』
琴子が何か言う前に、仁美のほうが先に話し出した。
『少し前から、お宅の息子さん、うちであずかってるんですけど、よかったら、ご夫婦でうちにいらっしゃいません? そちらもなんだか大変そうだし、仲直りもかねて、私どもでパーティでも』
「え?」
琴子は絶句した。
和夫が仁美の家に?
しかも、何?
この、琴子と正一の夫婦喧嘩をのぞき見しているような物言いは?
あれほど時代錯誤な男尊女卑の態度を崩さなかった正一が、萎びたペニスを握りしめ、顏を涙でくしゃくしゃにしてむせび泣いているのだ。
これまで虐げられる一方だった琴子には珍しい嗜虐的な感情が、彼女をサディストに押し上げでもしたかのように。
「だいたい、急に私を抱こうだなんて、いったいどういうつもりなの? 今までさんざん邪険に扱っておいて。大方、和夫と交わっている私の姿を盗み見して、下衆な劣情にでも見舞われたんでしょう。それこそ、あなたのほうこそ、変態性欲者だっていう証拠じゃなくって?」
自分がいじめっ子にでもなったような気分だった。
「お、俺は…どうしたらいい?」
正一が弱々しく手を伸ばし、琴子の裸の足に触ろうとする。
「どうしたら、おまえを抱けるようになる?」
「触らないで!」
伸びてきた正一の手を、琴子は冷たく足で振り払った。
「離婚したいなら、どうぞ。さっさと私と別れて、不倫中の女と再婚したら? 私は和夫を連れてこの家を出て行くわ。そうしてふたりっきりで、思いっきり濃密なセックスを愉しむの」
ついさっきまでの自分からは想像もできないほど強気の台詞が、すらすらと琴子の口をついて出た。
それほどセックスにおける優位性というのは強いものなのだ。
自信に満ちた自分と、その反対に男としての面子を失墜した正一。
今、勝者は明らかに琴子のほうだった。
一流大学を卒業し、一商社に勤め、それなりに女にもモテてきたプライドの高い正一のことである。
それまで奴隷扱いしてきた妻にこんな恥をかかされたまま、離婚に応じるはずがない。
琴子にはその打算がある。
案の定、正一はゆるゆるとかぶりを振った。
「離婚など、考えたこともない…。女とも、すぐに手を切る…。俺はおまえを、満足させたい…。今は、それしか考えられないよ」
「残念ながら、今のあなたにそれは無理。さっきも言った通り、和夫とセックスした後で、下手糞なあなたとなんか死んでもできないわ。離婚しないというなら、認めなさい。私がいつ、どこで和夫とヤっても怒らないって。せいぜい私と彼のセックスを見て、本物の歓びがどういうものなのか、勉強することね」
「琴子、おまえ…」
正一の目が、狂人を見るように見開かれた。
無理もない、と思う。
琴子は夫に実の息子とのセックスを容認しろと言っているのだ。
しかも、その行為を夫に見せつけると宣言しているのである。
「不満なの? 近親相姦だって警察にでも訴え出るつもり? それでもいいけど、そうなると、あなたはとんだ笑い者よね。息子に妻を寝取られたダメ亭主って、会社でも後ろ指さされちゃうんじゃないかしら?」
「や、やめろ…おまえ、狂ってる…」
正一が苦しげに声をしぼり出した、その時だった。
だしぬけに、テーブルの上に置いた琴子のスマートフォンが鳴り出した。
すばやく手に取って表示を見ると、意外なことに、数時間前に別れたばかりの仁美からである。
『あ、琴子さん、今、ちょっといいかしら?』
琴子が何か言う前に、仁美のほうが先に話し出した。
『少し前から、お宅の息子さん、うちであずかってるんですけど、よかったら、ご夫婦でうちにいらっしゃいません? そちらもなんだか大変そうだし、仲直りもかねて、私どもでパーティでも』
「え?」
琴子は絶句した。
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