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#16 反応する肉体⑨

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 慣れない運動のせいで疲れが出たのか、いつのまにか少しうとうとまどろんでしまったようだ。
 ハッと我に返ると、廊下の喧騒は収まり、病棟全体は静けさを取り戻したようだった。
 幸い、リハビリルームにはいまだに琴子以外の人の気配はない。
 マシンから降り、そっとドアを開け、廊下の様子をうかがった。
 昼食の片づけと午後の検温が済んだのだろう。
 廊下にはまったく人気がない。
 和夫は30分後に戻ってこいと言った。
 時計はないが、もうそのくらい、時間は経っている気がする。
 スマホは切れたままなので、もう画像を送る必要はなさそうだ。
 和夫はとにかく早く琴子に会いたがっているのだ。
 これから起こるだろうことを想像すると、複雑な気分になった。
 実の息子の自慰を母親が手伝うだなんて…。
 でも、と思い返す。
 たとえば子どもが半身不随の車椅子生活を送っている家庭の場合、ひょっとするとそういうこともあるのでは?
 子どもが大きくなれば、当然性欲の処理も必要になる。
 脚だけでなく、手も動かせない場合、頼りになるのは最も近い位置にいる女性、母親だけなのだから…。
 そう考えると、少し気が楽になった。
 顔面に大やけどを負った和夫も、思えば似たような境遇なのだ。
 この先、まともに女性とつき合えないとなると、母親である琴子がなんとかしてやるしかないのだから…。
 帰りの半周は、ほとんど人に遭わなかった。
 和夫の個室に滑り込むと、琴子は太い安堵の吐息をついた。
 やっと終わった。
 長い旅だった。
「かあさん?」
 和夫の声がした。
 気を取り直して、カーテンを開ける。
 和夫はヘッドボードにもたれて、上半身を起こしていた。
 ミイラのような顏に開いた、赤く充血した目が舐めるように琴子を見た。
「ご苦労さん。とってもよかったよ」
 上機嫌な口ぶりで、和夫が言った。
「今度は顔を隠す仮面を用意してきてよ。そのほうが、かあさんも行動しやすいだろ?」
「何言ってるの」
 琴子は和夫の下半身を覆うシーツに手を伸ばした。
 シーツをめくる前から、そのふくらみには気づいていた。
「待ちきれなかったよ」
 シーツをはぎ取ると、和夫はすでに下半身裸になっていた。
 目の前にそそり立つ、夫のそれ顔負けの性器に見入っていると、ふいに和夫が言った。
「ベッド汚せないから、最後は口で頼むよ」

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