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#9 反応する肉体①
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正一の拒絶は徹底していた。
かなり経ってからベッドに潜り込んでくると、下着姿で震えている琴子に背を向け、すぐに眠ってしまったのだ。
耳障りな夫のいびきを間近に聞きながら、琴子はまんじりともせず夜を明かした。
ショックで気が遠くなりそうだった。
セクシーな下着に身を包んで夫を誘惑し、見るも無残に撥ねつけられた自分が哀れでならなかった。
離婚の危機が現実味を帯びてきたようで、涙がとめどもなく溢れ出て頬を濡らした。
出張の前日、あれほど激しく琴子を求めてきた正一はどこへいってしまったのだろう。
あれから、わずか2ヶ月しか経っていないのに。
この2ヶ月の間に、何があったのだろうか。
和夫の事故の詳細を、正一は知らない。
もちろん、琴子が真実を話していないからだ。
和夫は、琴子が台所を離れた隙に、何かの拍子にフライパンの油を顔に浴び、大やけどした。
そういうことにしてあるのだ。
だから、和夫の一件が、正一の態度に影響しているとは思えない。
確かにそのことが正一の心に要らぬプレッシャーをかけているのは間違いないが、琴子を拒絶する原因がそこにあるとはとても思えないのだ。
とすれば、やはりあの女の存在が正一を変えたということになるのだろうか。
琴子はPCの動画を最後まで見なかったことを後悔した。
こうなったら、なんとしてでも、あの女の正体を突き止めなければならない。
夫が会社に出かけたら、もう一度確認してみよう…。
渦巻く想念に疲れ果て、ようやく寝入ることができたのは、空が明るみかけた頃のことだった。
次に目覚めた時には、すでにベッドの中に正一の姿はなく、琴子は寝すぎた自分に蒼ざめた。
台所にはトーストを焼いた匂いだけがただよっており、やはり正一はいなかった。
食器棚の上の置時計は午前8時を示している。
いつもなら、今頃朝食を摂る時間だが、朝早いと言っていたのは本当だったらしい。
仕方なく、スマホのラインで詫びを入れた。
軽い朝食を摂り、下着姿のまま、正一の部屋に入る。
PCの位置が微妙に変わっている気がして、嫌な予感が胸を責め苛んだ。
PCを立ち上げてみると、予感は的中した。
あの動画が、フォルダごとなくなっている。
琴子はきのう、動画を再生している途中でPCをシャットダウンしてしまったことを思い出して、舌打ちした。
あれでは正一がPCを起動したとたん、動画が流れてしまう。
正一は、琴子に動画を見られたことに気づき、ゆうべ、すべてを削除してしまったに違いない。
激情に駆られたからといって、あまりにうかつすぎた。
これで、正一の不倫相手に関する手掛かりがなくなってしまった。
琴子に知られたことを察知したからには、正一はありとあらゆる証拠を隠滅してしまうだろう。
スマホのラインのチャット履歴も、何もかも…。
手がかりがあるとすれば、ただひとつ。
和夫だ。
和夫はあの動画の存在を知っていた。
ということは、中身を見ている可能性は高い。
もしかしたら、相手の女の正体を知っているかもしれないのだ…。
そんなことに思いを馳せている時だった。
手に持ったままだった琴子のスマホが鳴った。
画面を見ると、また和夫からだった。
忘れるなよ。あの下着。
来る時は、下着の上に、じかにスプリングコートを着てくること。
ほかに服は要らない。
ラインメッセージは、ただそれだけだった。
「何考えてるの? あの子…」
琴子はあられもない己の下着姿を見回した。
今身に着けているのが、まさに和夫が指定してきた下着のセットである。
乳房の大半が露出したブラジャー。
前も後ろもTバックのような、きわどいショーツ。
この上にコートだけ羽織って、病院に来い。
和夫はそう命じてきたのだ。
妖しい疼きが身内でさざめいたのは、そう再認識した瞬間だった。
私ったら、何を…。
一瞬浮かびかけた異様なイメージに身震いし、琴子は激しく首を打ち振った。
とにかく、言われた通りにするしかない。
そうして、和夫の機嫌を取り結んだら、さりげなく訊いてみよう。
あの動画の中の女の正体に、心当たりがないかどうか…。
かなり経ってからベッドに潜り込んでくると、下着姿で震えている琴子に背を向け、すぐに眠ってしまったのだ。
耳障りな夫のいびきを間近に聞きながら、琴子はまんじりともせず夜を明かした。
ショックで気が遠くなりそうだった。
セクシーな下着に身を包んで夫を誘惑し、見るも無残に撥ねつけられた自分が哀れでならなかった。
離婚の危機が現実味を帯びてきたようで、涙がとめどもなく溢れ出て頬を濡らした。
出張の前日、あれほど激しく琴子を求めてきた正一はどこへいってしまったのだろう。
あれから、わずか2ヶ月しか経っていないのに。
この2ヶ月の間に、何があったのだろうか。
和夫の事故の詳細を、正一は知らない。
もちろん、琴子が真実を話していないからだ。
和夫は、琴子が台所を離れた隙に、何かの拍子にフライパンの油を顔に浴び、大やけどした。
そういうことにしてあるのだ。
だから、和夫の一件が、正一の態度に影響しているとは思えない。
確かにそのことが正一の心に要らぬプレッシャーをかけているのは間違いないが、琴子を拒絶する原因がそこにあるとはとても思えないのだ。
とすれば、やはりあの女の存在が正一を変えたということになるのだろうか。
琴子はPCの動画を最後まで見なかったことを後悔した。
こうなったら、なんとしてでも、あの女の正体を突き止めなければならない。
夫が会社に出かけたら、もう一度確認してみよう…。
渦巻く想念に疲れ果て、ようやく寝入ることができたのは、空が明るみかけた頃のことだった。
次に目覚めた時には、すでにベッドの中に正一の姿はなく、琴子は寝すぎた自分に蒼ざめた。
台所にはトーストを焼いた匂いだけがただよっており、やはり正一はいなかった。
食器棚の上の置時計は午前8時を示している。
いつもなら、今頃朝食を摂る時間だが、朝早いと言っていたのは本当だったらしい。
仕方なく、スマホのラインで詫びを入れた。
軽い朝食を摂り、下着姿のまま、正一の部屋に入る。
PCの位置が微妙に変わっている気がして、嫌な予感が胸を責め苛んだ。
PCを立ち上げてみると、予感は的中した。
あの動画が、フォルダごとなくなっている。
琴子はきのう、動画を再生している途中でPCをシャットダウンしてしまったことを思い出して、舌打ちした。
あれでは正一がPCを起動したとたん、動画が流れてしまう。
正一は、琴子に動画を見られたことに気づき、ゆうべ、すべてを削除してしまったに違いない。
激情に駆られたからといって、あまりにうかつすぎた。
これで、正一の不倫相手に関する手掛かりがなくなってしまった。
琴子に知られたことを察知したからには、正一はありとあらゆる証拠を隠滅してしまうだろう。
スマホのラインのチャット履歴も、何もかも…。
手がかりがあるとすれば、ただひとつ。
和夫だ。
和夫はあの動画の存在を知っていた。
ということは、中身を見ている可能性は高い。
もしかしたら、相手の女の正体を知っているかもしれないのだ…。
そんなことに思いを馳せている時だった。
手に持ったままだった琴子のスマホが鳴った。
画面を見ると、また和夫からだった。
忘れるなよ。あの下着。
来る時は、下着の上に、じかにスプリングコートを着てくること。
ほかに服は要らない。
ラインメッセージは、ただそれだけだった。
「何考えてるの? あの子…」
琴子はあられもない己の下着姿を見回した。
今身に着けているのが、まさに和夫が指定してきた下着のセットである。
乳房の大半が露出したブラジャー。
前も後ろもTバックのような、きわどいショーツ。
この上にコートだけ羽織って、病院に来い。
和夫はそう命じてきたのだ。
妖しい疼きが身内でさざめいたのは、そう再認識した瞬間だった。
私ったら、何を…。
一瞬浮かびかけた異様なイメージに身震いし、琴子は激しく首を打ち振った。
とにかく、言われた通りにするしかない。
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あの動画の中の女の正体に、心当たりがないかどうか…。
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