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#2 和夫の要求①
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「聞いたよ。この顔、整形手術受けても、完全には元に戻らないんだって」
琴子が口を開くより早く、和夫が言った。
発声器官もやられているのか、地の底から響いてくるような不気味な声だ。
「和夫ちゃん…」
目に見えない手で顔を張り飛ばされたようなショックを受けて、琴子は一瞬、言葉の接ぎ穂を失った。
この子はそれを知っているのだ。
私の口から告げないで済むのは助かるけど、和夫の心情を思うと胸が張り裂けそう…。
「ごめんね」
最初に何を言おう。
ここまでくる間、ずっと考えていたのに、結局、やっとのことで口をついて出たのは、そのひと言だった。
「悪いのは、かあさんよね…」
この謝罪の言葉…。
ある意味、それは口にしてはいけないひと言のような気がしないでもない。
なぜなら、あの事故の原因は、琴子自身にあるわけではないからだ。
これを口にしてしまったら、私は和夫のあの行為を、暗に認めることになる。
そうではないか…?
「ああ」
否定してくれるだろう、という琴子の一縷の思いを突き崩すように、酷薄な口調で和夫が言った。
「かあさんのせいで、俺は顔も青春も失った。もう、高校も辞めようと思ってる。治っても元の顔に戻れないなら行く意味ないし、それに、受験勉強する気力も湧かないよ」
「和夫ちゃん…」
琴子はベッドの端に両手をついた。
涙が頬を濡らすのがわかった。
和夫の呪詛に似たストレートな言葉が、琴子の中の迷いを吹き飛ばした。
和夫は半年後に迫った大学受験も諦めるという。
やはり…悪いのは、この私なのだ。
理由はどうあれ…あの時、私さえもう少ししっかりしていれば。
改めて、自分が大変な過ちを犯してしまったことを思い知らされた。
理屈ではない。
私は和夫から輝かしい前途を奪ってしまったのだ。
それはもはや、否定できない事実だった。
いくら悔やんでも、悔やみきれなかった。
こんなことになるのなら、どうしてあの時…。
「かあさん、反省してる?」
激しく動揺する琴子を冷たい眼で見つめながら、和夫が淡々とした口調で言い募る。
いっそのこと、激高して罵倒してくれればいいものを、その物言いはあくまでクールである。
「ごめん…本当に、ごめんなさい…」
「今更謝られても、何にもならないよ」
号泣寸前の琴子に、ぴしりと和夫が言った。
「わかるよね? こんなふうになっちゃったら、俺にはもう、かあさんしかいないんだってこと」
琴子は顔を上げた。
どういう意味だろう?
ふとそんな疑念が胸に兆したからだ。
「それでさ、かあさんがほんとに反省してるかどうか、俺、確かめてみたいんだ」
和夫の声に、ふと面白がっているような響きが混じった。
「確かめてみたいって…それ、どういうこと?」
なんとはなしに嫌な予感を覚えて、琴子は訊き返した。
「たとえば、俺の頼みを、かあさんが全部聞いてくれるかどうかってこととか」
「頼み…? もちろん、和夫ちゃんが望むなら、私にできることは何でもするわ…」
そこまで口にして、琴子ははっと口に手を当てた。
まさか…。
これは、罠?
「言ったね」
口の在処を示す包帯の切れ目が口角をかすかに吊り上げた。
「かあさん、今、言ったよね。俺のためなら、なんでもしてくれるって」
「え、ええ…」
あの時の…。
あの台所でのワンシーンが、フラッシュバックのように脳裡に甦る。
「なら、まずひとつお願いしようかな。ここで服脱いでよ。かあさんの裸、俺に見せてほしいんだ」
にやりと笑って、和夫が言った。
琴子が口を開くより早く、和夫が言った。
発声器官もやられているのか、地の底から響いてくるような不気味な声だ。
「和夫ちゃん…」
目に見えない手で顔を張り飛ばされたようなショックを受けて、琴子は一瞬、言葉の接ぎ穂を失った。
この子はそれを知っているのだ。
私の口から告げないで済むのは助かるけど、和夫の心情を思うと胸が張り裂けそう…。
「ごめんね」
最初に何を言おう。
ここまでくる間、ずっと考えていたのに、結局、やっとのことで口をついて出たのは、そのひと言だった。
「悪いのは、かあさんよね…」
この謝罪の言葉…。
ある意味、それは口にしてはいけないひと言のような気がしないでもない。
なぜなら、あの事故の原因は、琴子自身にあるわけではないからだ。
これを口にしてしまったら、私は和夫のあの行為を、暗に認めることになる。
そうではないか…?
「ああ」
否定してくれるだろう、という琴子の一縷の思いを突き崩すように、酷薄な口調で和夫が言った。
「かあさんのせいで、俺は顔も青春も失った。もう、高校も辞めようと思ってる。治っても元の顔に戻れないなら行く意味ないし、それに、受験勉強する気力も湧かないよ」
「和夫ちゃん…」
琴子はベッドの端に両手をついた。
涙が頬を濡らすのがわかった。
和夫の呪詛に似たストレートな言葉が、琴子の中の迷いを吹き飛ばした。
和夫は半年後に迫った大学受験も諦めるという。
やはり…悪いのは、この私なのだ。
理由はどうあれ…あの時、私さえもう少ししっかりしていれば。
改めて、自分が大変な過ちを犯してしまったことを思い知らされた。
理屈ではない。
私は和夫から輝かしい前途を奪ってしまったのだ。
それはもはや、否定できない事実だった。
いくら悔やんでも、悔やみきれなかった。
こんなことになるのなら、どうしてあの時…。
「かあさん、反省してる?」
激しく動揺する琴子を冷たい眼で見つめながら、和夫が淡々とした口調で言い募る。
いっそのこと、激高して罵倒してくれればいいものを、その物言いはあくまでクールである。
「ごめん…本当に、ごめんなさい…」
「今更謝られても、何にもならないよ」
号泣寸前の琴子に、ぴしりと和夫が言った。
「わかるよね? こんなふうになっちゃったら、俺にはもう、かあさんしかいないんだってこと」
琴子は顔を上げた。
どういう意味だろう?
ふとそんな疑念が胸に兆したからだ。
「それでさ、かあさんがほんとに反省してるかどうか、俺、確かめてみたいんだ」
和夫の声に、ふと面白がっているような響きが混じった。
「確かめてみたいって…それ、どういうこと?」
なんとはなしに嫌な予感を覚えて、琴子は訊き返した。
「たとえば、俺の頼みを、かあさんが全部聞いてくれるかどうかってこととか」
「頼み…? もちろん、和夫ちゃんが望むなら、私にできることは何でもするわ…」
そこまで口にして、琴子ははっと口に手を当てた。
まさか…。
これは、罠?
「言ったね」
口の在処を示す包帯の切れ目が口角をかすかに吊り上げた。
「かあさん、今、言ったよね。俺のためなら、なんでもしてくれるって」
「え、ええ…」
あの時の…。
あの台所でのワンシーンが、フラッシュバックのように脳裡に甦る。
「なら、まずひとつお願いしようかな。ここで服脱いでよ。かあさんの裸、俺に見せてほしいんだ」
にやりと笑って、和夫が言った。
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