制服の胸のここには

#28 魔法少女は死んだ④

「え、ええ、もう、それが無理なことは、私としても重々承知しております」
　カエルくんがヤツデの葉っぱみたいな両手を顔の前でひらひら振りながら、”校長”に戻って言い募った。
「氷室基子さん、あなたがこの金田猛さんに性的魅力を覚えることは金輪際ない、たとえ世界が滅んでもあり得ない、それは確かでしょう」
「よくわかってるじゃない」
　基子は鼻から太い息を吐いた。
　自分がいつになくエキサイトしてしまっているのがわかる。
　それもこれも、今も私の手を握ったまま離そうとしない、このチンカスクソ野郎のせいだ。
「でも、そしたらどうなるの？　リピドーとやらが玄武を動かす燃料なんでしょ？　けど、私のリピドーはいくら待ってもゼロのまま。私たち、つまりはこのまま、動かないこのバカでかい棺桶に乗って、トウテツとかいうあの怪獣にやられるのを待つしかないってこと？」
「いえ、そうではありません」
　半ばやけくそ気味に半笑いで挑発する基子を、諫めるようにカエルくんが睨んできた。
「玄武を動かす方法が一つだけ、あります」
「リピドーゼロで、燃料切れなのに？」
「リピドーは、何もあなただけのものではないのです」
「はあ？」
「そもそもパイロットはふたり。そう、もう一人の金田猛さん、彼のリピドーを普段の倍の勢いで燃え立たせればよいのです」
「う…」
　虚を突かれたように、傍らの猛に目をやる基子。
「リピドーが仮に本当にゼロだとしたら、玄武は起動することすら不可能だったはず。なのに先ほど、一応コクピットはあなた方を乗せて作動し、玄武の胎内に格納された。これはなぜだと思いますか？」
「な、なぜって…？」
　言われてみれば、その通りである。
　ついさっき、曲がりなりにも、玄武は一度起動したのだ。
　あの現象を起こしたのは、つまり…。
「そうです。今あなたが想像した通りのことが起こったからです。すなわち、あなたの手を握ることで、この金田猛という少年が欲情し、一時的ではありますが、リピドーエネルギーを生み出したからです。すなわち、仮にあなたが欲情できなくとも、この少年さえ欲情すれば、そのエネルギーで、玄武は動かせるということ。ただしその場合、彼には2人分、欲情してもらう必要があるわけですが…」
「そ、そんな…」
　基子は蒼白になった。
　嫌な予感がする。
　この変態野郎を、欲情させる、だって？
　しかも、2人分？
　でも、いったい、どうやって？
「そんなこと、できるの？　こいつを、私の分まで、欲情させるだなんて…」
　半信半疑の基子に向かって、うなずくカエルくん。
「そこで、本人に、聞いてみようと思うのです。どうしたら、一番欲情するのか、そのシチュエーションというか、方法を」
　その時、基子は見た。
　うなだれ、じっと動かずにいた金田猛の肩が、むせび泣きをこらえるように、かすかに震え始めたのを…。