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#23 搭乗
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玄武の巨体の足元まで来ると、地面から透明な円盤が分離して浮き上がった。
「これに乗って」
カエルくんに促され、僕は一足先に円盤の上に立った。
「せまっ。もっと隅に行ってよ」
僕を睨んで氷室基子が要求した。
「あ、ご、ごめん」
ギリギリまで下がったところに、いかにも嫌そうに基子が乗り込んでくる。
「しゅっぱあつ!」
いつの間にか基子の右肩にちょこんと座ったカエルくんが号令をかけると、音もなく円盤が浮上し始めた。
「わ」
揺れて倒れそうになり、反射的に基子のほうへと伸ばした僕の手を、間一髪かわして基子が叱責する。
「やめてよ。さわらないで」
「い、いや、そ、そんなつもりじゃ…」
円盤の端で辛うじてバランスを取り戻し、体勢を立て直した僕はぼやいた。
憂鬱な気分だった。
なにもそこまで嫌わなくても、と思う。
でも、ある意味これは、仕方がないのだ。
彼女は僕の最も醜い部分を目の当たりにしてしまったのだから…。
「もう少し仲良くしてほしいな。これじゃ、先が思いやられるよ」
カエルくんが水かきのついた手のひらをひらひらさせ、僕と基子に訴える。
「どういうこと?」
基子が鋭い視線で睨みつけると、
「すぐにわかる。ほら、着いた」
カエルくんが背後を右手で指し示した。
そこは玄武の胸のあたりで、その部分だけ壁面の結晶質が融けてテラスみたいになっていた。
どうやら玄武の中に入るための通路のようなものらしい。
間近に見る玄武は、漆黒の身体から無数の棘が生えた見るからに凶暴なフォルムをしていた。
そのベースになっているのは、亀は亀でもゾウガメみたいな大人しい種ではなく、明らかに凶暴極まりないワニガメの一種のようだ。
メタリックな金属の表皮と、ナノ炭素カーボン製の甲羅を持つ巨大なワニガメか。
うわ、ぞくぞくするほど、かっこいい。
「こっち」
カエルくんの指示で基子が通路を歩き出すと、正面の腹甲の一部に長方形の穴が開いた。
中には、戦闘機のコクピットみたいな座席がふたつ、行儀よく並んで格納されている。
「あれに座って、手をつなぐんだ」
右手の人差し指でコクピットを指して、カエルくんが言った。
「そうすれば、後は自動的に玄武の内部へと取り込んでくれる」
「わかった」
うなずいて、踏み出そうとした時だった。
「待って」
不機嫌そうな表情になって、基子が制止した。
「カエルくん、あなた、今なんて言った?」
「は?」
基子の肩で、大きな目をぱちくりさせるカエルくん。
「だから、アレに座れば後は自動的に…」
「その前よ」
基子の口元がかすかに痙攣している。
どうも、かなりの勢いで怒っているようだ。
「あそこに座って、手をつなげ。あなた、さっき確かにそう言ったよね?」
「これに乗って」
カエルくんに促され、僕は一足先に円盤の上に立った。
「せまっ。もっと隅に行ってよ」
僕を睨んで氷室基子が要求した。
「あ、ご、ごめん」
ギリギリまで下がったところに、いかにも嫌そうに基子が乗り込んでくる。
「しゅっぱあつ!」
いつの間にか基子の右肩にちょこんと座ったカエルくんが号令をかけると、音もなく円盤が浮上し始めた。
「わ」
揺れて倒れそうになり、反射的に基子のほうへと伸ばした僕の手を、間一髪かわして基子が叱責する。
「やめてよ。さわらないで」
「い、いや、そ、そんなつもりじゃ…」
円盤の端で辛うじてバランスを取り戻し、体勢を立て直した僕はぼやいた。
憂鬱な気分だった。
なにもそこまで嫌わなくても、と思う。
でも、ある意味これは、仕方がないのだ。
彼女は僕の最も醜い部分を目の当たりにしてしまったのだから…。
「もう少し仲良くしてほしいな。これじゃ、先が思いやられるよ」
カエルくんが水かきのついた手のひらをひらひらさせ、僕と基子に訴える。
「どういうこと?」
基子が鋭い視線で睨みつけると、
「すぐにわかる。ほら、着いた」
カエルくんが背後を右手で指し示した。
そこは玄武の胸のあたりで、その部分だけ壁面の結晶質が融けてテラスみたいになっていた。
どうやら玄武の中に入るための通路のようなものらしい。
間近に見る玄武は、漆黒の身体から無数の棘が生えた見るからに凶暴なフォルムをしていた。
そのベースになっているのは、亀は亀でもゾウガメみたいな大人しい種ではなく、明らかに凶暴極まりないワニガメの一種のようだ。
メタリックな金属の表皮と、ナノ炭素カーボン製の甲羅を持つ巨大なワニガメか。
うわ、ぞくぞくするほど、かっこいい。
「こっち」
カエルくんの指示で基子が通路を歩き出すと、正面の腹甲の一部に長方形の穴が開いた。
中には、戦闘機のコクピットみたいな座席がふたつ、行儀よく並んで格納されている。
「あれに座って、手をつなぐんだ」
右手の人差し指でコクピットを指して、カエルくんが言った。
「そうすれば、後は自動的に玄武の内部へと取り込んでくれる」
「わかった」
うなずいて、踏み出そうとした時だった。
「待って」
不機嫌そうな表情になって、基子が制止した。
「カエルくん、あなた、今なんて言った?」
「は?」
基子の肩で、大きな目をぱちくりさせるカエルくん。
「だから、アレに座れば後は自動的に…」
「その前よ」
基子の口元がかすかに痙攣している。
どうも、かなりの勢いで怒っているようだ。
「あそこに座って、手をつなげ。あなた、さっき確かにそう言ったよね?」
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