制服の胸のここには

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
8 / 31

#6 接近

しおりを挟む
 ー本日の部活動は、すべて中止となりました。校内にいる生徒は、至急帰宅してください。繰り返します、本日の部活動は…ー
 校内放送が入った。
「なにそれ?」
 氷室基子の隣で参考書から顔を上げたのは、ポニーテールの吉田美緒だ。
「きょうこそはせっかく真面目にテスト勉強しようと思ったのにい」
 丸い顔を更に丸く膨らませた。
 ふたりは図書室に来たばかりで、席に着いてからまだ10分と経っていない。
 基子はちらと柱時計に視線を投げた。
 まだ4時過ぎたばかりだ。
 ”指定”の時間には早すぎる。
 5時まで美緒に付き合って時間を潰そうと思ったのに、「帰れ」とは、いったいどういうことだろう?
 カバンの中でスマホが震えた。
 取り出して素早く画面を盗み見ると、ふぁみろうからのLINEメッセージが入っていた。
 ー街中がこれじゃきょうは会えないね。残念だけど、また今度にしようー
 は?
 基子の切れ長の目がすうっと細くなる。
 不機嫌になった証拠である。
 街中がこれって…。
 Xを開く。
 ーやばい、やばいって!
 ー揺れてる! 結構大きい!
 いきなり大量のメッセージが流れてきた。
 動画もある。
 これは息吹山方面?
 揺れる画面。
 地面から土煙が吹き上がる。
 それも一か所だけでなく、あちらでもこちらでも。
 音?
 地響き?
 なんだろう?
 地震?
 ー震源が移動してるんだってー
 あれは母が言ったのか、私が言ったのだったか…。
 確かに、授業中も、何度か地面が揺れた気がする。
「家で勉強なんてむりむり! うち、兄弟多いし、うるさくって難易度高いよね!」
 美緒はぶんむくれで参考書をリュックの中に突っ込んでいる。
「難度と易度は同時に高くならないよ。そもそも易度なんて言葉、ないと思うし」
「へ? なんのこと?」
「ううん、なんでもない。独り言」
 仕方ない。
 少し早いが、体育館を覗いてみるか。
 お小遣い稼ぎがぽしゃった以上、さしあたり、義務の遂行以外にやるべきことはない。
 基子はある意味厳格なまでにスクェアな性格だ。
 自分で決めたルールは絶対に破らない。
「美緒は先に帰ってて。私、ちょっと、忘れ物しちゃったみたいだから」
 薄いカバンを手に取って立つ。
 リュックは野暮ったいから使わない。
「へ? 忘れ物?」
 見上げてきた美緒の顔は、金魚の出目金にそっくりだった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...