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#187 初子と怪獣大戦争⑭
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私はさまざまな装飾に彩られた老女の顔を、じっと見返した。
え?
この人、今、なんて言った?
島の魔神?
何それ。
どうしてそんなもの、この私が倒さなきゃなんないの?
「魔神、毎年ひとり、若い娘を生贄に捧げないと、村の者を襲って食う。だが、この村にはもう、年頃の娘は誰もおらぬ。このままではわしら、怒った魔神に全員食い殺されてしまう」
頭にかぶった豪華な孔雀の羽根の冠を震わせながら、酋長が言った。
確かに村人たちは男たちが多いし、中には女性もいるにはいるけど、中年以上か子どもばかりである。
でも、それとこれとは話が別だ。
プリケツ・マンマミーアなる名前を聞いた時には、サンフランシスコ=ザビエル以上の衝撃を受けた私だったが、その後の展開のあまりの不条理さに、もう笑う気力も残っていなかった。
第一、そうすると、どすんどすんというあの足音は、まさにその魔神が村に近づいているってこと?
だったらもう、逃げられないじゃない!
「あたし思うんだけどさ、あの足音、きっとその魔神のものだよね」
今は戒めを解かれ、元のように装備を身に着けたソフィアが言った。
「だよなあ。なんかすぐそこまで来てるって感じだよなあ」
ここぞとばかりに相槌を打つ一平。
「だから翔子、初子に載ってちゃちゃってやっつけちゃったらどう?」
「うんうん。困ってる人を助けるのも、勇者の仕事だしな」
ふたりは勝手に盛り上がっている。
困ってる人ったって、こいつら、さっきまで私たちを煮て食べようとしてたんだよ?
助ける義理なんてないでしょ?
困惑の視線をラルクに向けると、
「いいだろう。ただしひとつだけ、条件がある」
なんと、しれっとした顔で、勝手に酋長と交渉を開始しているではないか!
ちょ、ちょっと待ちなさいよ、あんた。
戦うのはあんたじゃないんだよ!
この私なんだからね!
「なんじゃ、その条件というのは」
酋長がラルクのほうに身を乗り出した。
だから、ばーさん、違うんだって!
そいつはただの通行人みたいなもので、リーダーでもなんでもないんだから!
「この島には、魔王軍の前哨基地があるはずだ。そこに忍び込む方法を教えてほしい」
ラルクの言葉に、
「なんだ、そんなことか」
かすかに笑って、酋長がうなずいた。
「よかろう。魔神さえ退治してくれるのなら、総出を挙げておまえたちを支援しよう」
「ということだ」
ラルクが私を振り向いた。
「翔子、連続出動で済まぬが、さっそく初子で出撃してくれ」
「なんか私、すっごく損してる気分!」
腹立ちまぎれに頬をふくらませたその時である。
「ぎゃああああっ!」
立て続けに悲鳴が沸き起こり、
バリバリバリバリッ!
そこに柵の倒れる音が、重層的に重なって響いてきた。
え?
この人、今、なんて言った?
島の魔神?
何それ。
どうしてそんなもの、この私が倒さなきゃなんないの?
「魔神、毎年ひとり、若い娘を生贄に捧げないと、村の者を襲って食う。だが、この村にはもう、年頃の娘は誰もおらぬ。このままではわしら、怒った魔神に全員食い殺されてしまう」
頭にかぶった豪華な孔雀の羽根の冠を震わせながら、酋長が言った。
確かに村人たちは男たちが多いし、中には女性もいるにはいるけど、中年以上か子どもばかりである。
でも、それとこれとは話が別だ。
プリケツ・マンマミーアなる名前を聞いた時には、サンフランシスコ=ザビエル以上の衝撃を受けた私だったが、その後の展開のあまりの不条理さに、もう笑う気力も残っていなかった。
第一、そうすると、どすんどすんというあの足音は、まさにその魔神が村に近づいているってこと?
だったらもう、逃げられないじゃない!
「あたし思うんだけどさ、あの足音、きっとその魔神のものだよね」
今は戒めを解かれ、元のように装備を身に着けたソフィアが言った。
「だよなあ。なんかすぐそこまで来てるって感じだよなあ」
ここぞとばかりに相槌を打つ一平。
「だから翔子、初子に載ってちゃちゃってやっつけちゃったらどう?」
「うんうん。困ってる人を助けるのも、勇者の仕事だしな」
ふたりは勝手に盛り上がっている。
困ってる人ったって、こいつら、さっきまで私たちを煮て食べようとしてたんだよ?
助ける義理なんてないでしょ?
困惑の視線をラルクに向けると、
「いいだろう。ただしひとつだけ、条件がある」
なんと、しれっとした顔で、勝手に酋長と交渉を開始しているではないか!
ちょ、ちょっと待ちなさいよ、あんた。
戦うのはあんたじゃないんだよ!
この私なんだからね!
「なんじゃ、その条件というのは」
酋長がラルクのほうに身を乗り出した。
だから、ばーさん、違うんだって!
そいつはただの通行人みたいなもので、リーダーでもなんでもないんだから!
「この島には、魔王軍の前哨基地があるはずだ。そこに忍び込む方法を教えてほしい」
ラルクの言葉に、
「なんだ、そんなことか」
かすかに笑って、酋長がうなずいた。
「よかろう。魔神さえ退治してくれるのなら、総出を挙げておまえたちを支援しよう」
「ということだ」
ラルクが私を振り向いた。
「翔子、連続出動で済まぬが、さっそく初子で出撃してくれ」
「なんか私、すっごく損してる気分!」
腹立ちまぎれに頬をふくらませたその時である。
「ぎゃああああっ!」
立て続けに悲鳴が沸き起こり、
バリバリバリバリッ!
そこに柵の倒れる音が、重層的に重なって響いてきた。
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