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#179 初子と怪獣大戦争⑥
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足を忍ばせ、そろそろと怪獣たちに近づいていく。
といっても、初子は身長も体重も相当なものなので、これがなかなかむずかしい。
ただ、怪獣たちがこちらに気づかないことを願うばかりである。
ちなみに、初子が右手に構えているのはフライパンだ。
悩んだ末、私は結局こちらを武器にすることにした。
左手の亀の子だわしときたら、もう何の役に立つのかわからないからだ。
汚れた怪獣の背中でも洗ってやれというのだろうか。
現在、2頭の怪獣は、地上戦に突入している。
勝利を確信したクモモンガが着地し、糸でぐるぐる巻きにされたガマキラスにとどめを刺そうとしているからだ。
ここまでは、レベル管理の女神の読み通りである。
ならば、次に私がやるべきことは、戦いを優勢に進めているクモモンガのほうを、優先的に倒すことである。
砂浜を遠回りして、なんとか2頭の背後に忍び寄ることに成功した。
クモモンガは、毛むくじゃらで、後ろから見ても気色の悪い姿をしている。
足の間の膜を畳み、尻を持ち上げて、今まさにその先端の毒針を哀れな犠牲者に打ち込もうとしているところだ。
怪獣に聞こえないように、
-ねえ、これ、どこを殴ればいいの?-
頭の中で思念を発すると、
-おや、小学校で習いませんでしたか? 蜘蛛の頭部には単眼が3つあります。あのルビーみたいなのが目印ですー
と、ゆとり世代をあざ笑うような答えが返ってきた。
知らないよ、そんなこと。
蜘蛛になんか、興味ないんだから!
とにかく、殴ればいいんでしょ? 殴れば!
フライパンを頭上に構え、一気に振り下ろす。
私のするように、初子も同じ動作を模倣する。
ゴン。
確かな手応えが来た。
身体中に接続した導線みたいなのを通して、初子の感じていることが私の神経にまで伝わってくる。
蜘蛛には首がないから、後ろから殴られたからといって、頭だけ振り返ることは不可能らしい。
チャンスだった。
私は何度もフライパンを振り上げ、釘の頭を打つように繰り返し振り下ろした。
やがてぐちゃっという卵の殻の割れるような感触があり、クモモンガの巨体がぐらりとかたむいた。
ズドドーン。
そのまま砂埃を立て、ゆっくりと砂浜に横倒しになった。
見ると、フライパンの連打で粉砕された頭部から、緑色の体液を垂れ流している。
「やったよ! みんな!」
私は快哉を叫んだ。
死んだかどうかまでは不明だけど、クモモンガのやつ、どうやら反撃してくる気配はない。
となれば、残りは後一匹。
しかも、こっちは蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされているから、もう楽勝だろう。
私=初子は、クモモンガの死骸を足で蹴ってどかすと、白い繭と化したガマキラスに向き直った。
鼻歌混じりにフライパンを振り上げた、その瞬間である。
突然、繭の表面が破れて、鈍色に光る槍のようなものが跳び出してきた。
とっさに飛び退いたけど、遅かった。
鳩尾のあたりに鋭い痛みが走り、画面の中の初子の下腹から血しぶきが飛び散った。
「きゃあっ!」
尻もちをついた私=初子の上に、黒い影がのしかかる。
蜘蛛糸を引き裂いて、ガマキラスが立ち上がったのだった。
といっても、初子は身長も体重も相当なものなので、これがなかなかむずかしい。
ただ、怪獣たちがこちらに気づかないことを願うばかりである。
ちなみに、初子が右手に構えているのはフライパンだ。
悩んだ末、私は結局こちらを武器にすることにした。
左手の亀の子だわしときたら、もう何の役に立つのかわからないからだ。
汚れた怪獣の背中でも洗ってやれというのだろうか。
現在、2頭の怪獣は、地上戦に突入している。
勝利を確信したクモモンガが着地し、糸でぐるぐる巻きにされたガマキラスにとどめを刺そうとしているからだ。
ここまでは、レベル管理の女神の読み通りである。
ならば、次に私がやるべきことは、戦いを優勢に進めているクモモンガのほうを、優先的に倒すことである。
砂浜を遠回りして、なんとか2頭の背後に忍び寄ることに成功した。
クモモンガは、毛むくじゃらで、後ろから見ても気色の悪い姿をしている。
足の間の膜を畳み、尻を持ち上げて、今まさにその先端の毒針を哀れな犠牲者に打ち込もうとしているところだ。
怪獣に聞こえないように、
-ねえ、これ、どこを殴ればいいの?-
頭の中で思念を発すると、
-おや、小学校で習いませんでしたか? 蜘蛛の頭部には単眼が3つあります。あのルビーみたいなのが目印ですー
と、ゆとり世代をあざ笑うような答えが返ってきた。
知らないよ、そんなこと。
蜘蛛になんか、興味ないんだから!
とにかく、殴ればいいんでしょ? 殴れば!
フライパンを頭上に構え、一気に振り下ろす。
私のするように、初子も同じ動作を模倣する。
ゴン。
確かな手応えが来た。
身体中に接続した導線みたいなのを通して、初子の感じていることが私の神経にまで伝わってくる。
蜘蛛には首がないから、後ろから殴られたからといって、頭だけ振り返ることは不可能らしい。
チャンスだった。
私は何度もフライパンを振り上げ、釘の頭を打つように繰り返し振り下ろした。
やがてぐちゃっという卵の殻の割れるような感触があり、クモモンガの巨体がぐらりとかたむいた。
ズドドーン。
そのまま砂埃を立て、ゆっくりと砂浜に横倒しになった。
見ると、フライパンの連打で粉砕された頭部から、緑色の体液を垂れ流している。
「やったよ! みんな!」
私は快哉を叫んだ。
死んだかどうかまでは不明だけど、クモモンガのやつ、どうやら反撃してくる気配はない。
となれば、残りは後一匹。
しかも、こっちは蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされているから、もう楽勝だろう。
私=初子は、クモモンガの死骸を足で蹴ってどかすと、白い繭と化したガマキラスに向き直った。
鼻歌混じりにフライパンを振り上げた、その瞬間である。
突然、繭の表面が破れて、鈍色に光る槍のようなものが跳び出してきた。
とっさに飛び退いたけど、遅かった。
鳩尾のあたりに鋭い痛みが走り、画面の中の初子の下腹から血しぶきが飛び散った。
「きゃあっ!」
尻もちをついた私=初子の上に、黒い影がのしかかる。
蜘蛛糸を引き裂いて、ガマキラスが立ち上がったのだった。
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