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#151 魔王軍基地潜入計画⑪
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船長は、サンフランシスコ・ザビエルと名乗った。
その名を耳にしたとたん、私は吹いた。
怒りを通り越して、笑いがこみあげてきたのだ。
あまりといえばあまりのネーミング。
これがネット小説なら、この名が出てきた時点でブックマークを外し、作者をブラックリストに載せているところである。
しかも、船の名前がまた轟天号だし、やる気がないにもほどがあるというものだ。
だが、しかし。
悲しいかな、これは私にとって、まぎれもない現実なのだった。
その証拠に、私たちが放り込まれた船倉はとてつもなくエビ臭く、お世辞にも居心地の良い場所とは言えなかったのである。
「くせえなあ。なんでここ、こんなにエビ臭いんだよ」
倉庫の隅で胡坐をかいた一平がぼやいた。
「赤エビ捕りの船なんだから、しょうがないでしょ」
ソフィアは意外に我慢強い。
「だいたい、赤潮で魚も住めない海に、なんでエビがいるんだよ」
「それはこういうわけだ」
聞きもしないのに、ラルクが話し始めた。
この男、ジョブが学者だけあって、うんちくを垂れるのが唯一のアビリティなのである。
「赤エビは、もともと海底の熱噴水孔周辺に住む、無酸素生物の一種なのさ。彼らのエネルギー源は、酸素ではなく、硫黄だ。だから、生では硫黄臭くてとても食べられたもんじゃない。真水で数時間煮立ててアクを抜き、殻をむいてから小麦粉をまぶし、フライにするのがベストの食べ方なんだ」
現物をまだ見ていないからなんともいえないけど、ロブスターより大きいエビフライなんて、想像するだけで胸やけがしそう。
船が徐々に島に近づいている証拠なのか、1時間もしないうちに波が荒くなってきた。
あのイエズス会の伝道師をもじったような名の海賊っぽい船長は、半日もあれば島に着くと言っていた。
島の周りには低気圧のせいで暴風が吹き荒れているそうだから、近づくにつれ、波が高くなるというわけだ。
すっかり船酔いして、半裸の姿で隅に寝転がっていると、さすがに疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
目が覚めたのは、船倉が闇の帳に包まれた真夜中のことである。
私の気を引いたのは、頭のほうでなにやらゴソゴソする気配。
薄目を開けると、壁にもたれたソフィアが股を開いて、太腿の間に両手を突っ込んでいる最中だった。
「何してるの? 眠れないの?」
寝ぼけまなこで声をかけてから、しまった、と思った。
どう見てもソフィアのしぐさは、オナニーの時のそれだ。
みんなが寝静まったのを待って、こらえきれず、自分を慰め始めたに違いない。
「あ、翔子」
ソフィアがミニスカート型の防具の裾をあわてて降ろした。
「な、なんでもない。ちょっとさ、大事なとこを蚊に刺されちゃったみたいで」
非常灯のオレンジ色の明かりの下で、つややかな頬が心なしか火照っているようだ。
「ふうん」
私は気のないそぶりを装って、寝返りを打った。
でも。
すべてが終わった今になると、わかる。
あの時私は、もっとソフィアを問い詰めるべきだったのだ。
まさかソフィアがあんなことを…。
ちょっと先走りすぎてしまったようだ。
ともあれ、どうせそんな暇なんてなかったのである。
次の瞬間、板一枚で隔てられた上の階から、漁師たちの悲鳴が聞こえてきたのだから。
「大変だ! みんな起きろ! 出たぞ! リヴァイアさんだ!」
その名を耳にしたとたん、私は吹いた。
怒りを通り越して、笑いがこみあげてきたのだ。
あまりといえばあまりのネーミング。
これがネット小説なら、この名が出てきた時点でブックマークを外し、作者をブラックリストに載せているところである。
しかも、船の名前がまた轟天号だし、やる気がないにもほどがあるというものだ。
だが、しかし。
悲しいかな、これは私にとって、まぎれもない現実なのだった。
その証拠に、私たちが放り込まれた船倉はとてつもなくエビ臭く、お世辞にも居心地の良い場所とは言えなかったのである。
「くせえなあ。なんでここ、こんなにエビ臭いんだよ」
倉庫の隅で胡坐をかいた一平がぼやいた。
「赤エビ捕りの船なんだから、しょうがないでしょ」
ソフィアは意外に我慢強い。
「だいたい、赤潮で魚も住めない海に、なんでエビがいるんだよ」
「それはこういうわけだ」
聞きもしないのに、ラルクが話し始めた。
この男、ジョブが学者だけあって、うんちくを垂れるのが唯一のアビリティなのである。
「赤エビは、もともと海底の熱噴水孔周辺に住む、無酸素生物の一種なのさ。彼らのエネルギー源は、酸素ではなく、硫黄だ。だから、生では硫黄臭くてとても食べられたもんじゃない。真水で数時間煮立ててアクを抜き、殻をむいてから小麦粉をまぶし、フライにするのがベストの食べ方なんだ」
現物をまだ見ていないからなんともいえないけど、ロブスターより大きいエビフライなんて、想像するだけで胸やけがしそう。
船が徐々に島に近づいている証拠なのか、1時間もしないうちに波が荒くなってきた。
あのイエズス会の伝道師をもじったような名の海賊っぽい船長は、半日もあれば島に着くと言っていた。
島の周りには低気圧のせいで暴風が吹き荒れているそうだから、近づくにつれ、波が高くなるというわけだ。
すっかり船酔いして、半裸の姿で隅に寝転がっていると、さすがに疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
目が覚めたのは、船倉が闇の帳に包まれた真夜中のことである。
私の気を引いたのは、頭のほうでなにやらゴソゴソする気配。
薄目を開けると、壁にもたれたソフィアが股を開いて、太腿の間に両手を突っ込んでいる最中だった。
「何してるの? 眠れないの?」
寝ぼけまなこで声をかけてから、しまった、と思った。
どう見てもソフィアのしぐさは、オナニーの時のそれだ。
みんなが寝静まったのを待って、こらえきれず、自分を慰め始めたに違いない。
「あ、翔子」
ソフィアがミニスカート型の防具の裾をあわてて降ろした。
「な、なんでもない。ちょっとさ、大事なとこを蚊に刺されちゃったみたいで」
非常灯のオレンジ色の明かりの下で、つややかな頬が心なしか火照っているようだ。
「ふうん」
私は気のないそぶりを装って、寝返りを打った。
でも。
すべてが終わった今になると、わかる。
あの時私は、もっとソフィアを問い詰めるべきだったのだ。
まさかソフィアがあんなことを…。
ちょっと先走りすぎてしまったようだ。
ともあれ、どうせそんな暇なんてなかったのである。
次の瞬間、板一枚で隔てられた上の階から、漁師たちの悲鳴が聞こえてきたのだから。
「大変だ! みんな起きろ! 出たぞ! リヴァイアさんだ!」
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