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#149 魔王軍基地潜入計画⑨
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飛空艇というから、RPGに出てくるようなかっこいい乗り物を期待していたのに、飛行場で私たちを待っていたのは、ただのヘリコプターだった。
それも、第二次世界大戦時の中古品を米軍から払い下げてもらったかのような、かなり年季の入ったシロモノである。
おまけにパイロットは、郵便ポストみたいなロボットときていて、やる気のないことこの上ない。
でも、ここまで来て文句を言っても始まらなかった。
ジャングルや砂漠を歩いて横断するよりは、このほうがまだずいぶんましだからだ。
「あの、ちょっと思ったんだけど」
ヘリが無事浮上すると、私はローターの回転音に負けじと大声を出した。
「どうしても船をチャーターしなきゃいけないの? このヘリで、島に直行すればそのほうが早いんじゃない?」
「それがそうはいかないのだ」
窓から外を眺めながら、ラルクが答えた。
「ものの本によると、怪獣島は厚い気圧の渦のさなかにあるらしい。空から接近するのは、台風の中に飛び込むようなもので、いわば自殺行為なんだ。ここは面倒でも、気圧の下を船でかいくぐって接近するしかない」
「そうなんだ」
私はため息をついた。
「どうした? 何か問題でも?」
「実を言うと、私、船って弱いんだ。子供の頃、遊園地のアヒルのボートで船酔いして以来、乗ったことないし」
そうなのだ。
そもそも、ここに来るきっかけになった釣りも、船に乗る本格的なのは無理なので、近所の池で釣り糸を垂らして済ませていたぐらいである。
「なんなら、気持ち悪くなる前に、あたしが気持ちよくしてあげよっか?」
ソフィアが体ごとしなだれかかってきて、そんなとんでもないことを言う。
「いいよ、MPは今のところ、MAXだから」
私はやんわりとソフィアの火照った体を押しのけた。
んとに、もう。
怪獣島を前に、そんな気分になれるわけ、ないじゃない。
ロボットがパイロットだと、便利な点がひとつある。
私たちが眠っている間も、不眠不休で飛び続けてくれることだ。
おかげで、夜が明けた頃には、窓の外に赤い海が見えてきた。
赤い?
そう。
青ではなく、赤いのである。
「うは、マジ赤いね」
私が、目をこすりながらつぶやくと、
「この赤海では、プランクトンが、常時異常繁殖している。だから、普通の生物は住むことができない。特産物の、赤エビ以外は」
「赤エビ? ロブスターみたいなの?」
「まあ、そんなものだ。ただ、ロブスターよりひと回りは大きいかな」
さすがラルク。
ロブスターを知っているとは。
って、こっちの世界にも、いるわけなのね、ロブスター。
でも、ちょっと嫌な予感がするよ。
だって、ロブスターより大きいエビって、もはやそれだけで立派な怪物じゃない。
「あ、ちょうどいい船があるぜ」
熱心に外を眺めていた一平が、下界を指差した。
「あれなら頑丈そうで、気圧の谷も平気なんじゃ?」
見下ろすと、小舟のひしめき合った港に、一艘だけ、巨大な鉄甲船が係留されている。
なんだか、織田信長が作った亀甲船か、ペリーが乗ってきた黒船みたい。
「そうだな。あの船の船長を探してみよう」
船のわき腹にデザインされているのは、異様にバストの大きい人魚である。
その顔が、気のせいかなんとなく私に似ていなくもない。
ヘリが降下を始めた。
地面が近づいてくる。
倉庫のような建物の前に人垣ができていて、ごつい男たちが何事かとこぞってこっちを見上げていた。
「着地シマス。しーとべるとヲ着用シテクダサイ」
その時、キンキン声で、ロボットパイロットが警告した。
それも、第二次世界大戦時の中古品を米軍から払い下げてもらったかのような、かなり年季の入ったシロモノである。
おまけにパイロットは、郵便ポストみたいなロボットときていて、やる気のないことこの上ない。
でも、ここまで来て文句を言っても始まらなかった。
ジャングルや砂漠を歩いて横断するよりは、このほうがまだずいぶんましだからだ。
「あの、ちょっと思ったんだけど」
ヘリが無事浮上すると、私はローターの回転音に負けじと大声を出した。
「どうしても船をチャーターしなきゃいけないの? このヘリで、島に直行すればそのほうが早いんじゃない?」
「それがそうはいかないのだ」
窓から外を眺めながら、ラルクが答えた。
「ものの本によると、怪獣島は厚い気圧の渦のさなかにあるらしい。空から接近するのは、台風の中に飛び込むようなもので、いわば自殺行為なんだ。ここは面倒でも、気圧の下を船でかいくぐって接近するしかない」
「そうなんだ」
私はため息をついた。
「どうした? 何か問題でも?」
「実を言うと、私、船って弱いんだ。子供の頃、遊園地のアヒルのボートで船酔いして以来、乗ったことないし」
そうなのだ。
そもそも、ここに来るきっかけになった釣りも、船に乗る本格的なのは無理なので、近所の池で釣り糸を垂らして済ませていたぐらいである。
「なんなら、気持ち悪くなる前に、あたしが気持ちよくしてあげよっか?」
ソフィアが体ごとしなだれかかってきて、そんなとんでもないことを言う。
「いいよ、MPは今のところ、MAXだから」
私はやんわりとソフィアの火照った体を押しのけた。
んとに、もう。
怪獣島を前に、そんな気分になれるわけ、ないじゃない。
ロボットがパイロットだと、便利な点がひとつある。
私たちが眠っている間も、不眠不休で飛び続けてくれることだ。
おかげで、夜が明けた頃には、窓の外に赤い海が見えてきた。
赤い?
そう。
青ではなく、赤いのである。
「うは、マジ赤いね」
私が、目をこすりながらつぶやくと、
「この赤海では、プランクトンが、常時異常繁殖している。だから、普通の生物は住むことができない。特産物の、赤エビ以外は」
「赤エビ? ロブスターみたいなの?」
「まあ、そんなものだ。ただ、ロブスターよりひと回りは大きいかな」
さすがラルク。
ロブスターを知っているとは。
って、こっちの世界にも、いるわけなのね、ロブスター。
でも、ちょっと嫌な予感がするよ。
だって、ロブスターより大きいエビって、もはやそれだけで立派な怪物じゃない。
「あ、ちょうどいい船があるぜ」
熱心に外を眺めていた一平が、下界を指差した。
「あれなら頑丈そうで、気圧の谷も平気なんじゃ?」
見下ろすと、小舟のひしめき合った港に、一艘だけ、巨大な鉄甲船が係留されている。
なんだか、織田信長が作った亀甲船か、ペリーが乗ってきた黒船みたい。
「そうだな。あの船の船長を探してみよう」
船のわき腹にデザインされているのは、異様にバストの大きい人魚である。
その顔が、気のせいかなんとなく私に似ていなくもない。
ヘリが降下を始めた。
地面が近づいてくる。
倉庫のような建物の前に人垣ができていて、ごつい男たちが何事かとこぞってこっちを見上げていた。
「着地シマス。しーとべるとヲ着用シテクダサイ」
その時、キンキン声で、ロボットパイロットが警告した。
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